集大成であり新しいスタート地点 “らくらく”13年目の超進化(前編):開発陣に聞く「らくらくスマートフォン F-12D」(2/2 ページ)
ドコモの「らくらくスマートフォン F-12D」は、13年続く「らくらくホン」シリーズで培った使いやすさと、スマートフォンならではの大画面や便利さを兼ね備えたシニア向けAndroid端末。新機軸のシニア向けスマホは、どのように作られたのだろうか。
「らくらくホン」から続く伝統のUIも用意
―― らくらくホンのメニューやソフトキーの配置は、かなり長い間同じレイアウトで続けてこられました。変えようにもユーザーが慣れているので変えられないという面もあったと思うのですが。
今田氏 そうですね。逆に、そこがらくらくホンシリーズの特徴でもあります。今回、タッチパネルになったので、ユーザーインタフェース(UI)をそのまま利用するのは無理がありましたが、踏襲すべきものはしようということで、F-12Dにもワンタッチダイヤルボタンを搭載しました。慣れ親しんだワンタッチダイヤルを生かすために用意しています。
また専用のUIを設けてはいますが、らくらくホンユーザーが乗り換えた際に違和感を覚える可能性はあると考えています。そこで、らくらくホンと同じ、分かりやすい言葉で表現したメニューを用意しました。設定メニューの「その他」という項目で切り替えられます。
らくらくスマートフォンのコンセプト的にはタッチパネルを使っていただきたいので、出荷時は新しいUIを設定していますが、らくらくホンで慣れ親しんだものがいいという場合に、逃げ道というか避難策というか、UIになじめなくても使っていただけるようにしています。
―― このメニューだと、ダイヤルキー側のボディがないだけで、らくらくホンと同じですね。
今田氏 画面内の構成はほぼ同じですし、(ソフト的な)ワンタッチダイヤルもあります。メニューを押していただくと、次の階層もらくらくホンと同じように表示されます。せっかくのスマートフォンなので少し味気ないとは思いますが、安心感は間違いなくあります。
―― これはこれで捨てがたい魅力がありますね。
今田氏 らくらくホンは12年以上続けてやってきましたので、ある意味王道といえるUIだと思います。これをそのまま使うという手もありましたが、そうするとスマートフォンである価値がなくなってしまう。そこで、スマートフォンとしてちゃんと新しいものを考えて入れようということになりました。最終的には好みに応じて選んでいただけるようにしていますが、あくまでメインとしてはタッチパネルに最適化した出荷時のUIを使っていただければと思います。
―― ドコモでは以前、タッチパネルで操作する“2画面ケータイ”「D800iDS」(三菱電機製)を販売していましたが、今回のF-12DのUIには、そのころのノウハウや課題が生かされているのでしょうか。
今田氏 D800iDSは作ったメーカーさんが違うこともあり、今回はらくらくホンをずっとやってきた中で蓄積された富士通さんのノウハウを生かしています。らくらくホンは累計2100万台以上売れていることを考えると、そのノウハウの蓄積は大変なものです。
特に、富士通さんはモニターもお持ちになっていて、ユーザーの声を直接聞き、フィードバックを受けて端末作りに活用されています。私たちも電話教室を年間、何度も開催することによって、ユーザーがどういうところでつまづくのか、どういったところに苦労されているのか、といった情報を得ています。実際に使われている方の声を反映しやすく、開発しやすい環境を持っていることは大きいですね。
持ちやすさを重視したボディ 安心のためのホームキー
―― サイズや持ちやすさなどの面で、ボディ自体もいろいろな工夫があるように感じます。
大堀氏 開発では、モニターにさまざまな画面サイズと本体サイズのモックアップを実際に手にしてもらい、どのサイズが良いのか調査しました。画面はできる限り大きい方がいいという結果でしたが、大きさは小さすぎてもダメで、程よいサイズがいいという回答でした。そのバランスをみて、このサイズになりました。
今田氏 端末の厚さについても、薄く作ろうと思えばできるんですが、握ったときのホールド感が大事だという反応がありました。そこで、手になじみやすいラウンド感と厚みを持たせて、あえてこの厚さになっています。また、本体の構造上、側面をフレームが一周しているのですが、触るとザラザラしています。これも滑り止めを意識して、あえて素材感を変えています。デザインのきれいさは重要ですが、それだけを追求するのではなく、持った時の握り感を大事にデザインしています。
細かいところですが、通話用スピーカーが普通のスマホに比べると、これ見よがしなデザインだと思うんですよ(笑)。これも“耳をここに当てるんですよ”ということを意識してもらうため、あえて目立たせているんです。どういう役割を持っているものなのか、見ただけで分かってもらえるようにデザインしています。
―― 最近のらくらくホンはずっと折りたたみボディですが、F-12Dはいわいるストレート形状です。ディスプレイを露出したまま持ち運ぶことに、不安を感じるという声はありませんでしたか。
今田氏 それはありませんでした。すでにスマートフォンはこういうものだという認識で、ボディを開かなくてよい、またボディ全体を画面に使えることのメリットを感じている方が多いですね。
―― ボディ正面にはホームキーが1つあるだけですね。
大堀氏 ディスプレイ下のキーは1つにして、迷ったときにすぐ戻れるようにしています。例えば、メールを作成しているときに設定画面を表示してしまって、どこの画面に行ったのか分からないから戻りたい、というときに、このホームボタンを押せばとりあえず最初の画面に戻って、ここからまた改めてメール作成を始めてもらえます。イメージとしては、フィーチャーフォンの終話キーです。どの画面でも終話キーを押せば戻れますから、迷ったときにはこれを押してください、ということです。
今田氏 元に戻れる安心感というやつですね。
大堀氏 細かいところでは、通話時もこのホームボタンを押せば「終了しますか?」という画面が出て終話できるようになっています。
今田氏 普通のスマートフォンは、電話をちゃんと切ろうとすると画面をタッチする必要があって、ホームボタンを押してもホームに戻るだけで、実際は電話が切れません。そういったことを防止したいという狙いです。
大堀氏 もちろん、通話画面でも「終了する」というボタンは表示していますが、とっさの時についホームボタンを押すことがあります。そういうときも「電話を終了しますか?」という表示が出て、確実に終了できるようになっています。
今田氏 困ったときのホームボタン、というイメージです。
―― どんなアプリでも、ホームボタンを押すと「終了しますか」という表示が出るのですか。
大堀氏 終了確認が必要なものは出るようにしています。例えば、メール編集中に急に終了してしまうと困るので「保存しますか?」という表示が出ます。データの保存が必要ないものはホームボタンで終了します。
―― バックグラウンドに回るのではなく、終了するんですね。
大堀氏 終了します。
今田氏 バックグラウンドに回す、という考え方もあると思うのんですが、その概念は分かりづらい。であれば、潔く終わらせて、スタートに戻って最初から始めるという考え方です。慣れてくると1つ1つ終わらせることを理解できるのでしょうが、最初は戸惑いがあると思います。そのためにキーも分かりやすく大きく作りました。また、電源キーは漢字で“電源”と表記しました。「電源と漢字で書いてある端末は普通ないよね」と開発メンバー内でも半分冗談のような感じでした(笑)
―― そうですね、これは画期的です。しかも縦書きですね。
今田氏 それも議論がありましたが、縦に持つことが多いので縦書きにしています。書かない方が格好いいのかもしれませんが、分かりやすさ、使いやすさの観点からいくと、きっちりと書いておく方が使いやすい。使いこなしていただくことが大事だと思っています。
―― スマートフォンとして、Wi-FiやBluetoothも搭載しているんですね。
今田氏 はい。端末のスペックはそんなに低くないんです。むしろ機能については、きっちり搭載していて、ワンセグ、防水、赤外線通信機能、Bluetoothなどを搭載していますし、スクリーンショットも撮れます。また、背面には緊急時用の「ワンタッチブザー」もあります。「スーパーはっきりボイス」や「あわせるボイス」「ゆっくりボイス」などの通話関連の機能はもともとらくらくホンが先行していて、これがいいということで他機種に展開しています。
―― 通話関連の機能は、今回のF-12Dにも搭載しているのですよね。
今田氏 はい、すべて搭載しています。
―― 音楽プレーヤーとしても使えますか。
今田氏 一応、メディアプレーヤーを積んでいますので使えます。Flash PlayerやYouTubeなどのアプリは搭載していませんが(後述)。WebブラウザでYouTubeにアクセスした場合、HTML5ベースのインタフェースで再生されます。ただ、YouTubeで動画を見るとデータ通信量が増えますので、積極的に使って欲しいというスタンスではありません。
―― PCとF-12Dを接続してデータを転送する、というような使い方はできますか。
今田氏 microSDカードを通じてやり取りすることはできますが、これも積極的に使うことは想定していません。
開発陣インタビューの後編では、F-12DがAndroidスマートフォンでありながらGoogleアカウントを使わない理由や、専用のパケット定額サービス「らくらくパケ・ホーダイ」について聞いた。
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