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40代女性は“デコ”が好き?――トレミールに聞くスマホアクセサリー事情佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)

スマートフォンのアクセサリー市場も急成長を遂げているが、売れ筋の製品やメーカーのこだわりなど、意外と知られていないことは多い。今回は女性向けを中心とした商品を開発しているトレミールに、アクセサリー開発の舞台裏を聞いた。

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デコレーションの専門家を雇用、品質にこだわり

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アクセサリー部門を管理する大竹氏

 では、実際に商品を開発する上では、どのような点を重視しているのだろうか。アクセサリーソリューション部 マネージャーの大竹温子氏は、「ケースを大ロットで生産するとなると、あまり個性的なものは難しい。いい意味で“普通”のデザインを心がけています」と話す。量販店で見かける一般的なデザインのケースと、オーダーメードケースの中間を狙い、あまり凝りすぎず、それでいて個性を打ち出すことを重視しているのだという。ファッションの流行についても、「個性的過ぎると受け入れてもらえないし、はやり廃りがあるので、流行とは切り離している」(大竹氏)とのこと。ただ季節感を取り入れたり、ケースを装着する端末のターゲット層に合わせた色を使ったりといったことは、意識しているそうだ。

 こだわりはほかにもあるという。1つはデコレーションに使用する素材で、照度や透明度が圧倒的に優れていることから、現在は高級クリスタルガラスメーカーとして知られる、スワロフスキー社製の素材のみを使用しているとのこと。その中でも、検査機関で5点満点中4点以上の高品質のものを使用し、さらに社内で1つずつ検品を実施するなど、品質にも非常に気を遣っているそうだ。

 そしてもう1つは、デコレーションする制作者の技術である。例えば素材を一直線に貼るのにも、人によっては“ずれ”が出てくることもあるし、貼り付けに使用するボンドがはみ出し、仕上がりが汚くなることもある。そうしたムラをなくして高い品質を実現するには、デコレーションする人材が大きく影響してくるのだそうだ。そこでトレミールでは、デコレーションケース制作の外注量を減らし、デコレーション作業をする“デコレーター”を自社で雇い入れることで、品質を向上させているのだそうだ。

photophoto 商品の要となるデコレーション制作は、ほとんどがトレミール社内で実施されている。デコレーションが好きな女性の応募が多いとのこと

 茶谷氏によると「日本では趣味でデコレーションを手掛けている人は10万人くらいいるのではないか」とのこと。そうした人たちはデコレーションに対する意識が非常に高く、大量生産品と比べ、はるかに高品質なデコレーションをしてくれるのだそうだ。だが一方で、せっかく身に付けた技術を仕事に役立てられる機会は少なく、デコレーションを職業とする人は少ない。そこでトレミールでは、そうしたデコレーターを雇い入れることで、大量生産品にはない質の向上を実現しているのだそうだ。現在、同社では50人程度のデコレーターを登録しており、時期にもよるが、20〜30人が社内でデコレーション作業にあたっている。

 ファッション性が強い商品であることから、こうした品質面でのこだわりは、販売にも大きく影響してくるそうだ。実際、大竹氏はデコシールのパッケージの事例を挙げ、「紙からプラスティックに変え、金ぱくを使用するなどファッショナブルなものに変えたところ、値段が上がったにも関わらず、販売量は1.5倍に伸びました」と話している。

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デコシールの新旧パッケージ。以前のもの(左)から現在のもの(右)に変えたところ、販売量は大幅に伸びたという

市場の“偏り”を解消する施策は?

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汎用性のあるスマホケースの開発にも意欲を見せる茶谷氏

 ここで1つ、筆者がスマートフォンアクセサリー市場で気になる質問をぶつけてみた。それはスマートフォンアクセサリーの“偏り”についてだ。

 というのも、量販店のスマートフォンケース売り場を訪れると、iPhone向けのケースは何百、何千と豊富な種類が用意されている一方で、Android向けのケースは数が少なく、機種によっては選択の余地がほとんどないものも見られる。ケースを中心として、アクセサリーがiPhone向けに極端に偏っている状況について、アクセサリーメーカーはどのように考えているのだろうか。

 トレミールでも、キャリア向けに卸しているケースはAndroid向けが多いが、自社オリジナルのケースはiPhone向けが8割を占めているという。だが茶谷氏は「(Android向けのケースが少ないという)ユーザーの声は多数いただいています。(Androidも)3〜4割の市場があるので、無視はできません。どうにかしたいとずっと考えています」答えており、偏りの問題があることは強く意識しているようだ。

 その解決策の1つとして、茶谷氏はデコシールの使用を提案しているが、もう1つの解決策として、多くの機種で利用できる、汎用性のあるスマートフォンケースの開発も進めていることを明かした。

 例えばブック型のケースの場合、通常はスマートフォンをぴったり収めるための“型”が入っているものが多い。だがその型が必要ないデザインとし、カメラ用のホールにある程度幅を持たせるなどすることで、特定の機種に依存しないケースを実現することも、不可能ではない。形状的な問題から限界はあるが、現在そうしたデザイン面の研究を進めており、特定の機種に限らない、汎用的に使えるケースも開発しているとのことだ。

キャリアへの卸で急成長、今後は海外を目指す

 トレミールでは女性向けのケースやアクセサリー以外にも、キャリアショップを展開するなど、もともと関係性が深いことから、イー・モバイルの端末向け公式ケースを独占的に提供している。こちらはデコレーションしたものだけでなく、クリアケースなど普遍的なものも多く手掛けている。だが茶谷氏は、「保護を重視したクリアケースなどは、安い人件費で大量に生産することが求められますが、そうしたビジネスは我々は得意ではありません」と話しており、やはりデザイン面で付加価値のあるものを提供することに注力し、足固めをしたいとしている。

 またトレミールではかつて、自社商品のネット直販も展開していたが、営業面での自由度が高いことから、現在は開発した商品の卸売りに徹しているとのこと。現在の主な販路は、公式ケースを手掛けるイー・モバイルと、Amazonや大手アクセサリーサイトなどのインターネット通販、そしてKDDIのau +1 collectionになるという。

 au +1 collectionは、auショップなどで販売されている、auスマートフォン向けのアクセサリーブランド。トレミールがau +1 collection向けにケースを提供したのは2012年の夏モデルからで、従来のラインアップに女性を意識したものが少なかったことから、自社ケースの提案をしたところ、好評を得て採用に至ったのだそうだ。その後もKDDIには継続してケースやアクセサリーが採用されており、その影響もあって売上も急拡大。現在ではトレミール全体の売上のうち、25%をスマートフォンアクセサリー事業が占めているそうだ。

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トレミールは2012年から「au +1 collection」でもケースを提供。継続的に採用されるなど、アクセサリー事業が躍進する大きな要因になっているという

 今後、スマートフォンアクセサリー事業をより成長させるうえで、茶谷氏は海外のマーケットに活路を見出している。「米国などでは、量販店を見てもケースの種類が非常に少なく、レザーを使ったものや、柄をプリントしたものなど、シンプルな作りのものがほとんど」(同氏)であるという。そこでトレミールが得意とするデコレーションなど、デザイン性の高いケースを投入することで、販路を広げ、売上を拡大したい考えのようだ。

 欧米などでは、フィーチャーフォンの時代より携帯電話は“道具”と見なされる傾向が強く、色やデザインがシンプルなものがほとんど。カラフルなものや個性の強いものは“子どもっぽい”などとして、受け入れられにくい傾向にあった。しかし茶谷氏は、「そうした傾向にも変化が見られるようになってきました」と話す。「米国の人はケースにあまり興味がないと思っていましたが、現地の女性に我々のケースを見せたら、日本の女性と同じように食いついてくることが多かった。米国などでもケースでドレスアップする文化が生まれてきているのではないでしょうか」とのことで、購買力のある欧米などを中心に、販売交渉を進めているそうだ。


 日本で大きく花開いたデコレーション文化と、スマートフォンでケースを着飾るという文化。それらが融合した日本ならではのケース文化が、海外でも大きく花開くことを期待したいところだ。

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