“義務化”で盛り上がる「SIMロック解除」 そのメリットとデメリット:佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)
総務省が進める「SIMロック解除」の義務化。そもそもSIMロックとは何のために行われているのか、また解除すれば本当にスマホの料金は安くなるのだろうか?
端末やアプリなどにもSIMロック解除の影響が及ぶ?
SIMロック解除はキャリアとユーザーの視点からしか説明されないことが多いが、実はそれ以外の事業者に対して大きな影響を与える可能性があることも、覚えておくべきだろう。最も大きな影響を受けるのは端末メーカーだ。なぜなら、SIMロック解除でキャリアが端末の割引を抑えた場合、先に触れた通り端末価格が高騰し、ユーザーが端末を積極的に購入しなくなる可能性があるからだ。
それを象徴しているのが2007年の事例である。総務省が同年に開いた「モバイルビジネス研究会」が、通信費から端末代を割り引く、現在のキャッシュバックに近い手法で携帯電話を極端に安い価格で販売するスタイルを問題視。一体となっていた端末と通信の料金を分離し、基本料を安くする“分離プラン”の採用をキャリアに求めた。その結果、割引がなくなり端末代が高騰したことが、消費者心理を直撃。電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、翌2008年の端末出荷台数は前年比で4割近く減少しており、端末メーカーに甚大な影響をもたらした。
割引を失うことで最も影響を受けるのは、高額な高性能端末に強みを持つメーカー、中でも体力の弱い国内のスマートフォンメーカーだろう。国内メーカーは2007年の影響と急速なスマートフォン化、海外メーカーの台頭などで体力が弱り、撤退も相次いでいる。そうした状況下で、SIMロック解除の義務化によってキャリアの割引施策が失われれば、特に海外に確固たる足場を持たないメーカーなどは国内での足場も失い、かなり厳しい状況に追い込まれる可能性が高い。
一方で、SIMロック解除の恩恵を大きく受けるのは、ミドル・ローエンドクラスの低価格スマートフォンを得意とする中国メーカーなどであろう。端末の割引ができなくなれば高価格帯の端末の販売が落ち込むため、キャリアが最初から価格が安い、ミドルクラスの端末の調達に動くと考えられるからだ。
そしてもう1つ、SIMロック解除はゲームなどのアプリベンダーにも大きな影響をもたらす可能性がある。なぜなら国内のアプリ人気が、実はキャリアや端末メーカーらの動向と、密接に繋がっているためだ。
キャリアが通信費を原資として高性能端末を割引販売していることは、長期契約者に不公平感をもたらすデメリットを生んだ一方で、多くのユーザーに高性能端末を行き渡らせるというメリットももたらしている。その影響を大きく受けて成長したのが、フィーチャーフォン時代のコンテンツプロバイダーや、現在であればゲームアプリベンダーなどだ。高性能端末の普及と世界で1、2位を誇る高品質のネットワーク、そしていわゆる“キャリア課金”の存在などをふんだんに活用できたことが、日本のモバイルコンテンツの成長を支える大きな要因となっているからだ。
だがSIMロック解除義務化の影響で端末割引が失われれば、高性能端末の普及は進まなくなり、多くのユーザーは中・低性能の機種を持つことになる。そうなれば、高い性能を持つ機種を前提としたゲームやコンテンツの開発は難しくなるだろう。またMVNOの利用が広まれば、Androidでもキャリア課金が利用できないユーザーが増加するため、必然的にコンテンツにお金を支払うユーザーが減少する可能性も考えられる。世界一とも言われている国内のアプリ市場がしぼんでしまえば、国内で成功し、海外進出を積極化しているゲームベンダーにも多くの影響が及ぶことになるだろう。
このようにSIMロック解除は、総務省が主張する“選択の自由”というメリットだけでなく、さまざまなデメリットも抱えているし、その影響が付随する多くの産業にも大きな余波をもたらす可能性があることを、忘れてはならないだろう。SIMロック解除義務化がどのような形でなされるかによっても影響は大きく変わってくるだけに、総務省の対応には慎重さが求められるところだ。
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