高いコスパを実現できた秘密とは?――ASUSに聞く「ZenFone 5」日本投入の狙い:SIMロックフリースマホメーカーに聞く(2/2 ページ)
ASUSが日本で初めて投入したLTEスマートフォン「ZenFone 5」が大きな話題を集めている。自社のSIMカードとセットで販売するMVNOも多く、2万円台後半という安さも魅力だ。ZenFone 5導入の背景や価格設定の秘密などを、ASUS JAPANに聞いた。
品質を維持しながらコストダウンできた理由
―― 同等の性能を持った端末より一段安くなっています。なぜ、ここまでのコストを実現できたのでしょうか。
テン氏 ASUSは、マザーボードやPCなど、スマートフォン以外にもたくさんの商品を開発、生産しています。大量購入によって、(スマートフォンとも共通する部材の)パネルなどは、値段を多少下げることができます。あとは、自社で開発しているのも大きいですね。どの部分にどういうマテリアルを使えば品質を維持しながらコストダウンできるのかを、分かってます。
リー氏 弊社はタブレットのビジネスも大規模にやっています。スマートフォンとタブレットではチップセットなど共通する部品も多いため、大量購入によるコストダウンの効果は大きいですね。あとは、マザーボード、PC、スマートフォンとやっていき、チップセットメーカーともアライアンスを組めています。戦略的にやっていく中で、そこの部分の調達でも有利になっています。
テン氏 後発ということもあるので、シェアを拡大しなければなりません。多少の利益は削ってでも、ユーザーに還元したいと考えています。
―― ただ、実際に使ってみると、パフォーマンスはスペック以上にいいように感じました。ここには、どのような工夫があるのでしょうか。
リー氏 タッチがスムーズに行くかどうか、オーディオがキレイかどうかなど、それぞれに専門のチームがあり、機能別にしっかりチューニングをしています。チップセットが本来持っているパフォーマンス以上に、全体として見たときに操作性がどうなのかという点にフォーカスを当てています。ちなみに、オーディオを専門に研究している部署は「ゴールデンイヤーチーム」(金の耳部署)と呼ばれています。
阿部氏 パフォーマンスという点では、性能を常に維持できるよう、メモリを解放できるアプリを入れるなどのカスタマイズもしています。
―― MVNO限定の8Gバイトに、16Gバイト、32Gバイトと3つのモデルがあります。実際、どのモデルの売れ行きがいいのでしょうか。
リー氏 弊社のユーザーはITリテラシーが高い方が多いこともあり、32Gバイト版が多いですね。最初は大容量で使いたいという方が多いようです。
ユーザー層を広げ、サポートを強化したい
―― ユーザー層はいかがでしょう。
テン氏 男女比で言うと、男性9、女性1で、年齢は30〜50代が一番多いですね。地域でいうと、関東や東海など、大都市圏が多くなります。
―― すごく偏っていますね(笑)。MVNOの一部にはすごく近いユーザー属性なのかもしれませんが。
出浦氏 どうしてもMVNOのSIMカードというと、30代、40代の男性に限定されてしまいます……。
テン氏 ただ、まだまだがんばれると思います。
出浦氏 「高くない価格でいいものを使える」というのがコンセプトで、使いやすい機能や、便利な機能がふんだんに入っている端末です。ですから、サポートのところももっと強化して、今後はもっと広げていければと思います。
テン氏 特に20代の方々はコストにシビアなので、これらのターゲットにしていきたいですね。
出浦氏 アクティブシニアの方もあると思います。毎月決まった額の収入がない中で、スマートフォンをあきらめていた方でも、MVNOと一緒に売らせていただければ、初期投資は抑えられます。必要なぶんだけ、必要なサービスをご使用いただけるので、スマートフォンを使ういい機会になるのではないでしょうか。
―― 今、サポートのお話をされましたが、やはりまだそこは不足しているという認識でしょうか。
テン氏 新しい客層に浸透していないというのがあります。まずは、サービス拠点がちゃんと日本にあり、サポートも日本語でやっていることを伝えないといけません。これは2015年の大きな目標です。
日本オリジナルのスマートフォン開発もあり得る
―― 日本に投入されるにあたって、苦労したことがあれば教えてください。
リー氏 日本は95〜97%がSIMロックの市場です。本社にも、なんでそこに入り込めないのかということは、何度も問い詰められました。こういうバッグラウンドがあって、今後どんどん成長していくということを説得するのに、すごく時間がかかりました。日本向けの製品でも、本社のエンジニアリソースを投入しないといけないので、小さな市場で少ししか売れないとなると、投入してもらうのが大変なのです。
―― そこはどう説得したのでしょうか。
リー氏 タブレットの経験が生きました。タブレットは、まずオープンマーケットをやり、実績がついたことでKDDIさんからお声掛けいただきました。まずはオープンマーケットでしっかりやって、次のステップとして3大キャリアと協業できればという風に考えています。
―― スマートフォンでも、キャリアと一緒にやるという選択肢はあるのでしょうか。
リー氏 キャリアさんは、販売チャネルも全国にくまなく持っています。販売力が量販店と比べても高いことは、KDDIさんとタブレット(MeMO Pad 8)を出して痛感しました。やはり端末だけでなく、通信とパッケージにできるのは大きいですね。
テン氏 日本は、私たちにとって大切な市場です。いきなり日系のメーカーと勝負するのは厳しいですが、日本で成功すれば、それが本国での重要な指標にもなります。ある程度SIMフリーで成功すれば、キャリアに日本のメーカーと一緒に並べてもらうこともあるでしょう。それを達成するために、カスタマイズなどの工夫もしています。
―― 日本独自のスマートフォンという可能性も期待できそうですか。
テン氏 MeMO Pad 8は、日本オリジナルといってもいいモデルです(実際、KDDIがデザインにも関与しており、日本版が起点となってグローバル版が発売された)。仮にZenFoneで声をかけられれば、オリジナルを作ることも十分ありえます。
取材を終えて
ZenFone 5は、単体で特徴を表しにくい端末だ。「カメラがデジカメ並み」だったり、「とにかくサクサク動く」だったりという、飛び抜けた機能がないからだ。一方で、価格を含めて見ると、その評価がガラッと変わる端末でもある。これだけ“普通に使えて”も、価格は2万円台。デザインが上質なこともあり、むしろ安いと感じてしまう。
とはいえ、日本は言うまでもなく“実質価格”の市場だ。大手3キャリアから端末を買うと、通信料への割引が発生し、トータルでのコストを抑えることができる。この割引を端末につけたと仮定したときの価格が、実質価格だ。これによって、ハイエンドモデルでも見かけ上、0円で買うことが可能になっている(とはいえ、最近では実質0円モデルは減っているが)。
こうした状況の中、ZenFoneのコストパフォーマンスが評価されたのは、MVNOが台頭してきたからにほかならない。もともとコストを抑えて安価な通信料を提供するMVNOでは、大手キャリアのような割引を出すことがビジネスモデル上できない。つまり、端末の価格が“丸裸”で比較されてしまうわけだ。MVNO市場では、従来以上にユーザーがコストパフォーマンスにシビアになっているといえるだろう。そのMVNOが「格安SIM」「格安スマホ」として盛り上がりを見せている最中に、タイミングよく投入されたのがZenFone 5だった。
一方で、ハイエンドモデルに慣れた筆者のようなユーザーからすると、もう一段高い機能の端末をASUSが作ったらどうなるのかを見てみたい気もする。同社会長のジョニー・シー氏は、年明けに米・ラスベガスで開催されるCESで後継機を披露することを示唆しており、その端末が今から楽しみだ。
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