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“革命的すぎる”速さが決め手――富士通が指紋の次に“目”を付けた虹彩認証のすごさMobile World Congress 2015

「しっかり登録、瞬間認証」。生体認証に強みを持つ富士通が虹彩認証でスマホのロックを解除するデモ機を展示した。2015年度中に同社の新型スマホに搭載される見込みだ。

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 生体認証に強みを持つ富士通が指紋認証の次に選んだのは虹彩(こうさい)認証だった――富士通は、スペイン・バルセロナで2015年3月2日〜5日に開催された「Mobile World Congress 2015」(MWC 2015)に出展。虹彩認証システムを搭載したスマートフォンのデモ機を展示した。まだ端末に外付けした試作段階のシステムではあるが、富士通は2015年度中には同システムを搭載したARROWSの新モデルを投入する見込みだ。

 なぜ今、虹彩認証に“目”を付けたのか。富士通 ユビキタスビジネス戦略本部長代理 松村孝宏氏に理由を聞いた。

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富士通 ユビキタスビジネス戦略本部長代理 松村孝宏氏
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富士通ブース。ほとんどの展示が法人向けのソリューションだ

虹彩採用の決め手は認証スピード

 虹彩認証とは、瞳孔の外側にある虹彩と呼ばれる環状のしわを読み取り、指紋のように本人確認を行う生体認証技術だ。今回のデモ機では、赤外線カメラと赤外線LED照明を用い、眼球部分に照射された赤外線を赤外線カメラで撮影、虹彩パターンを取得して登録・照合している。高い信頼性を持つDelta ID製虹彩認証エンジン「ActiveIRIS」を採用しているのも特徴だ。

 松村氏によると、画面を見て一瞬でロックが解除できる虹彩認証システムは、ARROWS端末が持つ「瞬間」というコンセプトに合致するのだという。ARROWSの企画担当者は、ダウンロードの速度や、ユーザーが何かをしようと思った時に最短で終わらせることを意識しており、圧倒的な認証スピードが採用の決め手となったということだ。「指紋や静脈認証も銀行で利用されるほどセキュリティが高いのは確かだが、より安全で高速な虹彩認証は、ユーザーにもイノベーションを感じていただける」と松村氏は胸を張る。

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スマホに搭載する虹彩認証システムの試作機の概要
photophoto 虹彩認証システムを搭載するスマホの試作機。端末上部に外付けの赤外線LEDとカメラを備える(写真=左)。画面上部の2つの穴に両目を合わせると、登録と認証ができる(写真=右)
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端末を見つめて虹彩を登録する
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約30秒で虹彩登録ができる
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画面上部を見て行う認証は本当に一瞬で終わる

 今後はモバイル決済の場面など、個人が生体認証を使う機会が増えてくると予測する松村氏は、「富士通は指紋認証を10年以上前から始めており、ようやく他社が指紋認証を携帯電話に導入してきた。生体認証では負けたくないという思いがあるので、さらに先を行き業界をリードしたい」と意気込みを語った。

 虹彩認証のメリットは、指紋認証ができない環境でも利用できることだ。雨が降ったり、手がぬれたりすると指紋認証は使えないが、虹彩認証なら問題ない。ほかにも、暗いところや湿気の多い場所など、さまざまな場面で利用可能。詳細は後半のQ&Aに譲るが、ライトアップされて明るすぎる環境などでは認証できないこともある。今後は随時指紋と虹彩を組み合わせて認証を行うこともできるだろう。

 また、虹彩のパターンは2歳ごろからほとんど変化することがなく、偽造も困難で、ケガなどのキズも受けにくいという特徴を持つ。

 虹彩認証は指紋認証と同様に、スマホのロック解除のほか、各種Webサービスのログインや、アプリ起動時などに応用できる。そのほか、ヘッドマウントディスプレイなどIoT(Internet Of Things:モノのインターネット)機器の生体認証をする際、指紋認証よりスムーズに認証することも可能だ。

 「エンジニアにとっては地獄の毎日が続いている」と笑う松村氏によると、赤外線の当て方や強さ、どうすればユーザーが両目をカメラの画角の中に入れてくれるかといったユーザーインタフェース(UI)など、今なおエンジニアは試行錯誤を繰り返しているという。特にUIは、LEDとカメラの位置、認証するのは片目なのか両目なのかなど、検討すべき課題がたくさんある。わざと画角を狭くすることで距離を増やす方法もあるということだ。

 今は外付けで端末上部に赤外線LEDと専用カメラを装着している状態だが、製品化にあたってLEDとカメラはいずれも端末内に収まり、今あるLEDやインカメラの隣に並ぶ予定。このタイミングでスマホに搭載した理由は、「カメラの小型化が進み、LED、認証エンジン、プロセッサなどの技術レベルが上がってきたから」だという。

虹彩認証システムを搭載した試作機で登録から認証までのデモを実施

 まずはコンシューマー向けに2015年の「なるべく早い時期」の実用化を目指すが、法人向けのソリューションも提供する予定だ。「指紋でもやっているクラウド認証など、富士通がノウハウを持っている分野でも他社に先駆けて導入したい」と松村氏は意気込みを語る。

目に悪くない? 認証できないのはどんな時? 虹彩認証にまつわる疑問をぶつけてみた

 虹彩認証は一体どれほどのスピードなのか? 安全性は? 認証しにくいのはどんな時? など、虹彩認証に関するさまざまな疑問もわいてくるだろう。松村氏に質問をぶつけた。

―― 登録、認証速度はそれぞれどれくらいかかりますか。

松村氏 「しっかり登録、瞬間認証」を掲げており、登録は約30秒、認証は本当に一瞬です。

―― どれくらいの距離から認証可能ですか?

松村氏 約20センチですが、30〜40センチを目指します。

―― 目に悪くないのですか。

松村氏 国際基準である光生物学的安全性試験(IEC 62471)を実施し、目の安全性は十分に検討しています。普段スマホのディスプレイから発せられるブルーライトよりよっぽど弱い光です。

―― 認証精度の基準をどう設定していますか。

松村氏 まさにそこを調整中です。厳しくしようと思うと本人でも認証できなくなることもあるので。

―― 認証しづらいのはどんな時ですか。

松村氏 赤外線のLED照明を当てるので、極端な話、ものすごいライトアップされて乱反射している時はカメラで撮影できないので認証できません。光を全反射するサングラスを着用した時も同様です。

―― メガネ、コンタクトの着用や、体調によって左右されたりしますか?

松村氏 関係ありません。カメラ撮影できる環境なら目の状態には左右されません。


 明るすぎる場所はNGということで屋外よりは屋内の方が認証しやすいようだ。認証の距離、精度などは今まさに調整中で、デモ機の仕様は今後もブラッシュアップされる。最後に、欧州市場や国内のMVNO市場での端末供給について尋ねてみた。

シニア市場のない欧州 「らくスマ」展開の難しさを痛感

 富士通は2013年から仏Orangeと欧州市場へシニア向け「らくらくスマートフォン」をベースにした端末を販売していた。松村氏は、「世界的に見ても日本のようにシニア向け携帯電話市場が成熟した国はなく、まず欧州でシニア市場を作っていくことに困難さを感じた」と苦労を語った。

 ユーザー満足度は非常に高いのだが、ショップ店員がしっかりと端末の良さをアピールしないと、そもそもシニア向け端末があること自体が認知されないのだという。当面は国内事業をしっかり地固めする方針だと松村氏は話す。

 「時代によって業界は変化しており、従来の供給先だけではビジネスが難しい」と前置きし、今後も要望があれば各MVNOへの端末供給を行っていくことを明かした。

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