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電気通信事業法とMVNOの関係MVNOの深イイ話

日本には、いくつか「事業法」と名の付く法律があります。MVNOを含む通信業界にも、電気通信事業法と呼ばれる事業法があります。今回は、この電気通信事業法の歴史と、日本の通信業界そしてMVNOのビジネスの関わりについて説明します。

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事業法とは何か

 日本には、いくつか「事業法」と名の付く法律があります。これは、民間のビジネスの規律となる法律で、専ら監督官庁が事業の内容を厳しく監督しなければならないビジネスに対して存在するようです。例えば電力各社のビジネスを規律する電気事業法、たばこに関するビジネスを規律するたばこ事業法、鉄道に関するビジネスを規律する鉄道事業法などが存在します。こうしてみると、昔は公営だった事業が多いですね。

 われわれMVNOを含む通信業界にも、電気通信事業法と呼ばれる事業法があります。今回は、この電気通信事業法の歴史と、日本の通信業界そしてMVNOのビジネスの関わりについてご説明しようと思います。

逓信省から電電公社、そしてNTTへ

 日本の電気通信は、明治時代に海外の電話機、電信機が導入されたことによりスタートしました。当時は「逓信省」と呼ばれる官庁があり、国営事業として電気通信の普及、運営を行っていたのです。つまり、当時は民間のビジネスとしての電気通信は存在しませんでした。この逓信省が国営として行っていた電話事業、電信事業は、戦後、日本電信電話公社(電電公社)、国際電信電話(KDD)に引き継がれます。特に、国の出資により設立された電電公社は、公衆電気通信法と呼ばれる法律に基づき電気通信業務を行いましたが、日本国内では依然として電電公社以外の事業者が電気通信事業行うことはできず、事実上の国営事業であることに変わりはありませんでした。

 このような国営事業による電気通信事業の運営は、日本の電話網の発展に大きく寄与しました。特に電話加入権(施設設置負担金)制度により全国津々浦々に電話局が設置され、また多くの家庭に電話線が引かれました。しかし、同時に通信料金の高止まりや機動性・柔軟性に欠ける事業運営など、国営によるデメリットもまた大きかったのです。

 1980年代になると、「行政改革」の旗の下に、電電公社を含む公社の民営化が次々に行われました。電気通信事業においては、1985年にそれまで独占的に事業を行ってきた電電公社が民営化されて日本電信電話(NTT)となり、同時に電気通信事業法が施行(公衆電気通信法は廃止)され、NTT以外の民間事業者が電気通信事業に参入できるようになりました。電気通信事業法の成立を受けて電気通信事業に参入したのが、DDI、TWJ(後にKDDと合流しKDDIグループに)、日本テレコム(後にソフトバンクグループに)といった第一種電気通信事業者(自ら回線設備を保有する事業者)、および第一種電気通信事業者から回線を借り付加価値サービスを提供するインターネットサービスプロバイダーなどの第二種電気通信事業者です(第一種、第二種の区分は2004年に廃止)。

電気通信事業法

電気通信事業法の目的とは

 これらの新規参入事業者が、既に巨大な設備を保有していたNTTと対等に競い合えるよう、電気通信事業法に「事業者間接続」の制度が設けられたことは以前の記事でも書きました。このように、電気通信事業法は、電気通信事業者間の公正な競争の促進をその目的(第一条)として掲げています。多くの電気通信事業者に公正な競争を担保することで、電気通信による国民の利便が達成され、公共の福祉の増進を図ることが電気通信事業法の存在意義なのです。

 ですが、何をもって「公正な競争」とするのかは、人によっても判断が異なることがあります。通信業界の環境や技術もまた急速に変化していきます。そのため、これまでに電気通信事業法は度々改正されてきました。最近の改正は、1年間に渡る有識者会議による議論を経て2015年5月に国会で可決成立したもので、改正のポイントとして、消費者保護ルールの強化、NTT東西の光ブロードバンド回線の卸提供に関わるルールの新設、電気通信事業者のグループ経営に関わるルールの導入、NTTドコモに関する規制緩和などが挙げられます。

 このように、電気通信事業法はその目的(公正な競争の促進)を達成するためにこれまで変化を続けてきましたし、今後も変化を続けていくことでしょう。

電気通信事業法とMVNOの関係

 2015年の電気通信事業法改正により、MVNOに関わるルールもいくつか見直されました。例えば以前の記事でも書いたHLR/HSS開放の促進もその1つです。厳密には事業法そのものではないのですが、事業法改正と併せて行われた省令・ガイドライン改正によるものです。

 これが実現すればMVNOがより高度なサービスを提供できる可能性が広がり、それによりMVNOとMNOの公正競争の促進が期待できる、というわけです。SIMロック解除の義務化や、MNOからMVNOがネットワークを借りるときの価格(接続料)の算定に関わる規律の強化もこのタイミングで実現しました。

 このようなルールの検討に当たっては、MVNOも当事者として積極的に意見や考え方を述べてきました。中にはMVNOによって「何が公正競争か」の意見が分かれることもありましたが、MVNO間で議論に議論を重ね、一致できる点を抽出して2年前に作成したのが「MVNOの事業環境の整備に関する政策提言」です。このような努力を行うことで、MVNO自身が自らの責任を理解し、電気通信事業法の目指す公正競争促進に寄与したことは、非常に重要な取組だったと考えています。

MVNOの事業環境の整備に関する政策提言

 もちろん、これで終わったわけではありません。当時から比べてもMVNOはより契約数を増やし、その責任はますます重くなっているといえます。今後、MVNOがより成熟した議論を戦わせ、次の電気通信事業法改正においても当事者として公正競争の実現という責任を果たしていく必要があると思っています。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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