業績好調の3キャリア――MVNOやY!mobileの台頭、公取委の指導で市場変化の可能性も:石野純也のMobile Eye(7月25日〜8月5日)(1/3 ページ)
ドコモ、KDDI、ソフトバンクグループ3社とも第1四半期の業績は好調だった。一方で、MVNOやY!mobileの台頭が少なからず影響を与えている。端末販売に関する公正取引委員会の指導もあり、市場環境が変化する恐れもある。
ドコモ、KDDI、ソフトバンクグループ3社の第1四半期決算が出そろった。3社とも業績は好調。ドコモは、売上高1兆1087億円、営業利益2993億円で増収増益。「年間計画達成に向け、順調な滑り出しになった」(ドコモ 代表取締役社長 吉澤和弘氏)と、一時の苦境は完全に脱したようだ。KDDIも傾向は同じで、売上高1兆466億円、営業利益2310億円と増収増益を達成した。
ソフトバンクグループは孫正義社長が「円高の影響。ドルで見ると(Sprintは)去年(2015年)と今年(2016年)で、売上が減っていないことが分かる」と述べているように、為替の影響で、円立てでの増収は小幅にとどまった。ただし、同社も増収増益は達成。売上高2兆1265億円、営業利益3192億円となり、業績を伸ばしている。KDDIやソフトバンクは、モバイル専業というわけではないため、ドコモと直接的な比較はできないが、それでも3社とも、第1四半期は好調だったとはいえるだろう。
データ利用増や光回線の増加が業績を押し上げる
3社が順調に業績を伸ばしている要因は、どこにあるのか。モバイル分野に関していえば、3社とも傾向は近い。1契約あたりの収入であるARPUが伸び、光回線とのセット販売が本格化してきたことや、総務省のガイドラインによって定められた「実質0円禁止」が始まった結果、解約率も低下している。その上で、通信料収入以外が増えているのも、3社共通だ。
スマートフォンの移行が進むと、データ利用が増え、収入が増加する。また、各社ともタブレットなどの2台持ちを推進。ドコモは「今年(2016年)の第1四半期も、変わらない伸びを示している。2台目需要は非常に強いと思う」(吉澤氏)といい、KDDIも「マルチデバイスの推進によってARPA(1ユーザーからの収入)の成長をけん引している」(KDDI 田中孝司社長)。タブレットやWi-Fiルーターなどの2台持ちは、単純な2回線の合計よりもキャリアが得られる収入は低くなるものの、ユーザー1人あたりに換算すれば、収益が増加するというわけだ。
固定回線とのセット販売では、「auスマートバリュー」でリードしていたKDDIだが、ドコモやソフトバンクも、NTT東西の光コラボレーションモデルを活用し、追随する。その効果は第1四半期の決算にも表れており、ドコモはARPUを130円教え上げる効果があった。「1年目はどちらかというと、フレッツからの転用が伸びていたが、転用はある程度のところで数に限りがある。第1四半期は、新規の割合が増えている」のが、市場を拡大できている要因だ。これまでとの違いは、「(ひかり電話などの)オプションサービスへの加入が増えている」(吉澤氏)ところにもある。
ソフトバンクは、「解約率が史上最低レベル」(孫氏)という形で効果が表れている。ソフトバンク光の累計契約者数も224万人に上り、「急増している」と孫氏は自信をのぞかせた。ソフトバンクはYahoo!BBなど、他の固定通信事業もあり、単体で見るとユーザー数は減少しているが、ソフトバンク光の押し上げ効果もあったため「累計でも急激に回線が伸びており、モバイルも安定している」(同)状況になった。
一方で、通信収入の伸びには限界もある。各社が付加価値領域に注力しているのも、そのためだ。第1四半期では、ドコモが「スマートライフ領域では、25.7%増の289億円」(吉澤氏)の営業利益があり、dマーケットのユーザー数は6月末で1448万契約となった。「2月、3月は積極的な販売促進をした反動もあり、昨年(2015年度)第4四半期の数字(契約者数)より減少しているが、7月27日時点では1511万と回復の方向に向かっている」(同)と、契約者数も増加傾向にある。パートナーとのコラボレーションを促進する「+d」については、「6月末で66件まで増加した」(同)。
KDDIも付加価値領域を広げており、「au経済圏」を拡大する方針だ。「au WALLET Market」や「auでんき」、各種保険サービスなどを立て続けに始めているのはそのためで、「損害保険と住宅ローンは、計画に比べてかなり伸びている」(田中氏)という。au WALLET Marketについては、「au STARとの連携で、秋からもう少し上がってくる」(同)見込みだ。
対するソフトバンクは、投資を強化。海外事業ではSprintを買収し、再建の最中にある。ポストペイドでは17万の純増を記録、フリーキャッシュフローも四半期ではプラスに転じ、「反転のめどが見えてきている」(孫氏)という。アリババ株やSupercellの売却で手に入れた現金を使いながら、CPUの設計を手掛ける英ARMを買収したのも記憶に新しい。ドコモやKDDIとはやや異なるアプローチだが、ソフトバンクも、モバイルの“次”を模索している様子がうかがえる。
関連記事
- ポケモンGO人気にドコモ社長「歩きスマホやめて」 新体制は“増収増益でGO”
センサーを使った歩きスマホの抑止機能やグラス型端末の開発にも言及。スマホ販売やインフラへの影響は「現時点で無し」。「PREMIUM 4G」で下り最大500Mbpsのサービスを年度内に開始と明言。 - 「UQ mobileにできるだけ頑張ってほしい」――KDDI田中社長がMVNOについて語る
KDDIの決算会見で、田中社長はUQ mobileのサービス拡充を推進することを強調。KDDIからMVNOやY!mobileへの流出が目立つため。中長期の戦略としては、IoT(モノのインターネット)分野での市場開拓を目指す。 - Sprintは「と金」、ARMは「本業」、その他の事業は「禅譲」――海外事業により注力するソフトバンクグループ孫社長
7月18日、電撃的に英ARMの買収意向を表明したソフトバンクグループ。その10日後に行われた同社の2016年度第1四半期決算説明会で、孫正義社長は米Sprintと合わせて海外事業により注力する姿勢を示した。 - 公正取引委員会、スマホ販売手法の是正を求める報告書を発表
公正取引委員会は「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を発表。MVNOの新規参入の促進の観点を中心に独占禁止法などに触れる可能性を指摘し、販売手法の是正を求めている。 - 総務省の「ガイドライン」がもたらした混乱――スマホの購入補助はどこまで許されるのか
スマートフォンの価格をめぐる、総務省とキャリアの駆け引きが激化している。総務省は3月25日にスマートフォンの販売を適正化する「ガイドライン」を策定。これを受け、大手キャリア3社がキャンペーンを見直す事態となったが、その基準は曖昧だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.