なぜ今“SIM替え”なのか 新生「BIGLOBEモバイル」の狙いを聞く:MVNOに聞く(3/3 ページ)
MVNOの老舗であるビッグローブが1月にKDDIの子会社となり、ブランドを一新した。シンプルな書体のロゴを採用するとともに、MVNO事業のブランドも「BIGLOBEモバイル」と命名。そんな新生BIGLOBEの戦略を、有泉健社長に聞いた。
トラフィック制御で高品質と低価格を両立
―― 発表会では、トラフィックコントロールで品質を上げていくというお話もされていました。この仕組みを、もう少し詳しく教えてください。
有泉氏 発表会では動画の例で説明しましたが、これは全てに対して同じ考え方でやっています。MVNOは帯域が限られた中、一方でお客さまに対して品質を落とさず提供する使命がある。それは非常に難しいことですね。TCP/IPで成り立っているので、混んでくると再送が起こり、その再送が最終的には輻輳(ふくそう)を引き起こしてしまう。根本的な解決方法は帯域を広げるしかないのですが、MVNOはいろいろな面でそれが厳しい。そこで、インターネットの中で培った、トラフィックコントロールの技術を導入しました。
動画だと一番分かりやすいのですが、YouTubeなりをクリックしてスタートすると、最初は広く帯域を取り、データを一気に読み込ませてバッファリングします。ある程度再生できるところまで読み込んだら、その後は、一定の画質で流れる程度まで帯域を絞り込みます。絞ったうえで、コンテンツを走らせるわけです。これによって、他のお客さまが使える帯域が広がることになります。そのままいくと、状況によっては品質を維持するのに帯域が不足することもあるので、悪くなったことは常時ウォッチして、再生不可のシグナルをもらうと、再びウィンドウサイズを広げてデータを読み込みます。
このように帯域をダイナミックに広げたり狭めたりすると、ある人は高い、ある人は低いという状況が混在するようになります。フルに帯域を取っておかなくても、この技術があれば、品質を担保したうえで料金も抑えることができます。
―― コンテンツに最適化しているということですが、スピードテストのような数値には表れづらいところですね。
有泉氏 ダウンロードのスピードもコントロールしてしまうので、よくならないですね。無駄なパケットを使わないようにするというのが基本です。そのため、確かにスピードテストやダウンロードの速度をウォッチしていくと、BIGLOBEは遅いという評価になってしまいます。そのベンチマークだと非常に厳しいのですが、私たちは、お客さまに対して提供する体感上の品質が重要だと考えています。そのため、再生が速いだとか、キレイで途切れないだとか、そういったものをベンチマークとして重視しています。スピードテストについては、MNOと戦ってもしょうがないので、実を取りに行く方針でやっています。
―― KDDIグループということで、Aプランの方だけ、スピードを速くするということはできないのでしょうか。
有泉氏 事業の中で、まだここ(MVNO)だけがブレークイーブンになっていません。一方で、お客さまの数の拡大も同時にやっていかなければならない。(総)帯域的には、今のドコモさんでやっているよりも絞った形で、テクニックを駆使しながら体感品質をキープしながら、低コストでやっていかなければならない経営課題もあります。(グループだからといって)無制限に広げるという判断までは行っていません。ただし、お客さまは増えていくので、その都度広げることはしています。
KDDIグループとしての取り組みは?
―― よりSIM替えしやすくなるという意味では、3社コンプリートしていた方がいいと思いますが、いかがでしょうか。
有泉氏 まずはドコモとau、2つのキャリアに対応し、これでしばらくお客さまの評価を待とうかなと思っているところです。
―― 一方で、BIGLOBEといえば、早くから端末にも取り組んでいました。この点は、どうお考えでしょうか。
有泉氏 業界でほぼトップクラスの品ぞろえで、その路線を変えたわけではありません。お客さまが自分の端末を長く使いたいというところを捉えて、まずはSIM替えをハイライトしましたが、今後も端末は続々と出てきます。もちろん、コンシューマーだけでなく、法人もにらんでいます。
過去には時計型の端末も出していましたし、SIMでのIoTというニーズは厳然としてあります。その時計型の「BL01」は3Gモデルなので、そのLTE版も検討しようかと考えているところです。
―― お話をうかがっていると、KDDI色があまり出ていないようにも聞こえました。
有泉氏 BIGLOBEとしてこれまでの生き様もありますし、そのBIGLOBEについてきてくれているお客さまもいます。親会社からの期待として、まずはそのブランドを磨き切ってくれというのが、私が言われてきたことです。結果としてお客さま基盤を大きくすることで、それが連結のグループにも跳ね返ります。まずは色を出すというより、磨くことをやっていきたいですね。
その中でも、KDDIグループのアセットの中に、これはというものがあれば積極的に取り上げていきたい。例えばKDDIの中には研究所があり、先進技術も持っています。法人マーケットでいえば、プライバシーとセキュリティに帰着しますが、中にはBIGLOBEにない技術もあります。そういったものは積極的に取り入れていけば、他にはない「サムシング・ニュー」や「サプライズ」を作っていけると思います。
取材を終えて:付加価値競争が鍵を握る
ブランドを一新して、テレビCMを開始するなど、立て直しを急ぐBIGLOBE。KDDI傘下のMVNOとしてAプランも用意し、ユーザーの選択肢も豊富になった。UQ mobileやJ:COM MOBILEとは異なるニーズに応える戦略も、合理的といえるだろう。ただ、単に低価格なだけだと、他のMVNOとの価格競争に巻き込まれてしまいかねない。これについては、エンタメSIMのような付加価値競争が鍵になりそうだ。インタビューにもあったように、エンタメSIMは、あくまで第1弾とのこと。新生BIGLOBEが、次にどのような手を打ってくるのかも期待したい。
関連記事
- ビッグローブのMVNOサービスは「BIGLOBEモバイル」に “SIM替え”を訴求
ビッグローブがMVNOサービスを「BIGLOBEモバイル」に統一する。今後、他社と差別化を図るためにどんなサービスを目指していくのか。有泉社長が説明した。 - 「BIGLOBEモバイル」、au回線のサービスを提供 ドコモ回線と同額
ビッグローブが、「BIGLOBEモバイル」でau回線を使ったサービスを提供する。料金はドコモ回線と同じ。対応機種も投入する。 - 「エンタメフリー・オプション」からKDDI傘下、iPhone SEまで――ビッグローブに聞く
「BIGLOBE SIM」を提供するビッグローブは、MVNOのシェア5位で、依然として存在感が高い。2016年11月からは「エンタメフリー・オプション」を提供。KDDIグループになって「au経済圏」拡大の一翼も担う。そんなビッグローブに最新戦略を聞いた。 - BIGLOBE SIM、NECの通信トラフィック制御技術を採用――通信速度を最大2倍に
「BIGLOBE SIM」は、NECの「Traffic Management Solution」を採用。主要機能である「Dynamic TCP Optimization」を活用し、通信集中時の通信速度を最大2倍に高速化した。 - KDDI、ビッグローブの子会社化を発表
KDDIがビッグローブの子会社化を発表。2017年1月末をめどに、総額約800億円で株式を取得して完全子会社化する。それぞれの顧客基盤・事業ノウハウなどを生かして事業拡大を目指す。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.