小寺信良のIT大作戦
権利者不明「孤児作品」問題の解決に一歩 文化庁が提案する新制度をひもとく(2/2 ページ)
より早く、より簡易に
これまでこのような孤児作品を手当てする方法として、裁定制度があった。これは権利者の許諾を得る代わりに、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することで利用する事ができるという制度である。裁定制度もより活用しやすくするため、過去何度か条件の緩和が行なわれてきたが、申請から利用開始できるまで1~2カ月程度かかることから、素早いビジネス展開には不向きとされているところだ。
新制度は、裁定制度に似てはいるが、文化庁長官の「裁定」ではなく、「行政処分」でやることになる。行政処分と聞くと、イメージとしては免許の取り消しや課税といった行政罰のイメージがあるが、実際には許可や認可、免許といったことも行政法上は行政処分というくくりになる。
行政処分は条件がそろえば比較的早く決定することができ、また一般論として、権利がある人が処分に不服がある場合は、行政訴訟として取消訴訟ができる。
新制度では、利用者の支払いが完了すればすぐに利用開始できる。ただ、権利者等の申し出があるまで、という時限的な利用となっている。利用開始後に権利者が現われた場合は、そこから通常のライセンス交渉に移り継続的に利用するか、あるいは交渉が決裂すれば行政処分が撤回され、使用が中止されるという流れだ。
またいったん新制度で利用を開始しておき、平行して裁定も申請することも想定されている。裁定制度には時限的利用といった性格はないので、長期にわたり利用したい場合は、途中から裁定制度へスイッチするわけだ。
権利者が見つからないのに、その使用料を誰に払うのか、また払った使用料のゆくえはどうなっているのかは気になるところだろう。報告書案では、新制度に対するなんらかの窓口組織(民間)を認め、そこが申請の相談や受付業務、使用料算出、使用料の徴収や管理を行なうこととなっている。
またそれら窓口機関運用のために、別途手数料を徴収することも認めているが、結局権利者が見つからないままで行くということも考えられる。その場合払った使用料をずーっとプールしておくだけというのももったいないので、それを組織運営費などに当てていけば、手数料も下げられるのではないかといった案が盛り込まれている。
これまで孤児作品の利用では、「裁定制度があるじゃないか。以上」みたいな感じだったが、文化庁と直接やりとりしながら1~2カ月という時間と手間がかかることから、あまり利用されてこなかった。一方で新制度および民間の窓口が開けば、もっとスピーディーに、簡易な手続きで利用が開始できるだろうと期待できる。
また裁定制度もこうした窓口機関が手続き代行することで、いわゆるワンストップで新制度から裁定制度まで行けるようになるかもしれない。これから作る制度なだけに、当然紙の書類のやりとりではなく、DX化された手続きになるだろうから、オンラインでフォームを埋めれば申請終わりになることを期待したい。
まだあくまでも「案」であり、これがそのまま法改正まで行くとは限らないが、少なくとも10数年前から燻ってきた著作権保護期間延長のデメリットが、ようやくカバーされることになるのかなという気はしている。江戸の敵を長崎で、という表現でいいのか分からないが、積年の課題解決に尽力された福井先生には、ひとまずお疲れさまでしたと申し上げたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「Xが情報収集に役立たない……」熊本地震で不満の声続出 「Twitterを返して」
-
2
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
3
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
4
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
5
はてな、11億円流出の調査報告書を公開 偽警察、口外禁止、残業・休出200時間超、孤立……ほころびが連鎖
-
6
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
7
Z世代に聞く次の流行、「AIイラスト」が1位に 「Claude Code」も上位
-
8
東野圭吾さん死去、Xなどで追悼相次ぐ 「ガリレオ」など数々の人気作、エンジニアから転身
-
9
NVIDIAやMicrosoftなど30社超、オープンAIの防御ツール共同開発の「Open Secure AI Alliance」設立
-
10
「あ、その情報メモしたい!」を叶えるワイヤレスイヤフォン、Nothing「Ear (3a)」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR