小寺信良のIT大作戦
迷走するNHKの「ネット放送」 資料からひもとく“あるべき姿”とは(2/3 ページ)
「NHK語」を読み解く
5月26日に開催された第8回では、NHK側が資料を提出し、プレゼンしたようだ。この資料によれば、基本的な考え方として、
「NHKには「情報空間の参照点の提供」(とくに修正経営計画で示した“安全・安心”“あまねく伝える”を優先して社会全体に貢献)、そして同時に、『多元性の確保への貢献』が求められているのではないか」
と22年11月に提示したものを再提示した。
「情報空間の参照点の提供」や「多元性の確保への貢献」とはなんのこっちゃという話だが、要するにテレビを見るだけでなく、ネットで探せばNHKの情報が見つかるようにしたいという話であろう。
またインターネット活用業務に関する基本的な考え方として、
「『放送と同様の効用』をもたらす範囲に限って実施していくのが適切」
と表現している。
さらに続くページでは、
「『放送の同時配信・見逃し』と『報道サイト(「放送」と同一の情報内容の多元提供)』が基本」
「上記以外は、『放送と同様の効用が、異なる態様』で実現されるものについて実施」
としている。
これを受けて第9回では、民放連が
「NHKは今般、理解増進情報の名の下で膨らんだインターネット活用業務を絞り込み、『ネットには放送と同じものを出す』との姿勢を打ち出した」
と念押ししているわけだが、NHKはネット向けのオリジナルコンテンツは作らないという方向性なのだろう。
ただし、NHKは資料の中で
「『放送と同様の効用』『放送』と同一の情報内容の多元提供」
「参照点・多元性の確保を大前提としたうえで『放送と同様の効用で異なる態様のもの』を提供」
としている。つまり動画コンテンツは放送されたものをそのまま使うが、「見せ方」や「見つかり方」は違いますよ、という話であろう。
例えば放送時の報道番組は、ニュース枠の中で1本の番組のように見えているが、実際にはニュースネタごとにディレクター(NHKではPDという)や担当記者が異なっている。つまり、細かい取材ネタを持ち寄り、キャスターを中心に据えることで1つの番組に見せているだけで、中身はバラバラに切り離せる。実際に朝のあるニュースを、お昼のニュース用に短く再編集してもう1回放送するといったことも行なわれている。
こうした、ユーザーの嗜好に合わせた再編成や、検索によるバラ提示は、ネット上のニュースプラットフォームでは常識だ。むしろニュースを検索したら、1時間報道番組が丸ごと見つかり、この中のどこかにあります早送りで探してください、みたいな事では、ネットのメリットがない。NHKの書きぶりは難解だが、やろうとしていることは分かる。
民放連がNHKの言うことを理解できないのは、番組と報道のどちらをメインと考えているのかの差である。民放は広告が取れるのは番組なので、そちらをコンテンツの主力と考えるが、NHKの主力コンテンツは報道である。
NHKの中では、NC(ニュースセンター)の権限はかなり大きい。緊急のニュースが入れば、番組を途中でもぶった切って編成変更する。深夜の放送休止中でもなにかあれば、当直のアナウンサーと技術スタッフだけで放送を再開する。NHKの放送システム技術者(放技)は、カメラ、照明、音声、スイッチャー、ミキサーといった放送・送出に関わる全ての業務を、持ち回りで担当し、習得する。これは、大災害によって1人しか生き残らなくても放送が出せるようにしておくため、といわれている。こういう感覚は、NHKにしかない。
むしろNHKの報道力が本気でネットへ出てくる脅威を肌感覚で敏感に感じているのは、日本新聞協会のほうだろう。第9回の資料として配布された意見書では、
「現状の『NHK NEWS WEB』は、放送内容を再構成するなどして、コンテンツの内容が放送番組と必ずしも同一とはいえない。また、仮に同一の情報内容であっても、さまざまな機能を加え提供されている」
と指摘しており、「放送と同一の情報内容の多元提供」によって、現在のテキストベースのニュース配信システム全体が脅かされるとけん制している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
2
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
3
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
4
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
5
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
6
ジョーシンへの不正アクセス、最大623万件漏えいか 運転免許証2件・マイナカード1件なども
-
7
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
-
8
タイムズカー流出で顧客らが損害賠償求め運営会社提訴へ サイト開設の弁護士が記者会見
-
9
Xの「いいね」長押しで1ドル送金 マスク氏が“投げ銭”機能を予告
-
10
「漏えい」の一言で素通り客が振り返る──相次ぐ情報流出の中で開幕のセキュリティ展示会 来場者の態度も激変
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR