AI動画と映像監督の「不本意な蜜月」
避けるのか、とことん使いこなすのか──明治のCMに生成AIを取り入れた映像監督の本音(1/2 ページ)
私は「AI動画」が好きではない
最初にお断りしておかなければならないことがある。私はちまたであふれているような、AIに傾倒する「AIクリエイター」ではない。私の本職は、あくまで実写やグラフィックス、モーショングラフィックスなどを使い、クライアントの課題解決や見てくれる人の感情を動かす映像を作る映像監督である。これまで15年以上、企画の考案から、コンテ作成、現場で役者やスタッフと向き合いながら映像を演出してきた。
そんな私も、近年は日々の制作ワークフローに生成AIを積極的に取り入れている。これまで苦労していたレファレンスの画像探し、企画コンテ作成、その他もろもろの仕事がAIの導入でかなり楽になった。そういった「作業」の上でのAIには頭が上がらないが、「生成AI動画」に関してはまだどこか好きになれない自分がいる。
いや、正直にいうと、AIがもっと発達した先にあるこの業界の未来に対する恐怖、「ここまでできるようになったの!?」という嫉妬、いろいろな感情が入り交じっている。この業界でもAI動画を使わない否定派と、使えるところにはどんどん取り入れるという肯定派と二分化しているのもいろいろと理由はあるのだろう。でも嫌っていても仕方がないのだ。フィルムからデジタルになったように、リニア編集からノンリニア編集になったように、この業界は常に進化をし続けているのだから。
「どうせ使うなら、プロとしてとことん使えるようになろう」と今日も私はまたAI動画と向き合い続けている。好きになれるように使いこなすことこそが、現在のクリエイターに課された最大の挑戦でもあり、チャンスなのかもしれない。
今回の連載では、AIを神格化するスタンスは取らない。次々と登場する新技術のキャッチアップに追われ、日々葛藤しながらも、最前線でAIと格闘するクリエイターのリアルな視点から、映像制作の現在地を言葉飾らずに本音でお伝えしたいと思う。
映像制作現場に広がる、生成AI活用
世間では、AIでまるまる一本映画を作ったとか、完全に自動生成されたCMといった極端なトピックばかりが目を引く。映画のワンカットのような映像が一瞬で生成されるのを見ると、確かに魔法のように思える。
でも、実際の制作現場では、最初から最後までAIだけで映像を完結させるというケースは、まだあまり多くはないように思う。画のクオリティをどこまでコントロールできるか、クライアントからの細かなリクエストに100%応えられるか、といった現実を考えると、全てをAIに丸投げするのはまだリスクが高いと感じる。
ただ、部分的な編集やCGなどに関しては、肌感としてはもう当たり前に普及してきていると感じている。急速な変化が始まったのは、ここ1、2年くらいだと思う。
少し前までのAI動画は、画面の一部が不自然に歪んでしまったり、輪郭がブレてしまったりする「いかにもAIが作った質感」が目立っていた。当時はその独特な見え方をあえて逆手に取った、飛び道具的な使い方が主流だったように思う。
それが、ここ最近で技術が急速に進化した。現在のAIは、細かい髪の毛の1本1本や、自然な被写界深度も再現できる。実写と見分けがつかないレベルの非常にクリーンで自然な表現が作れるようになり、今や「4K」という、テレビや映画の大画面でもそのまま使える驚くほどの高画質で書き出すこともできるようになっている。
この高画質化もあり、テレビCMの一部カットやMVをはじめ、商業映像の現場でもAIの導入が着実に進んでいる。私自身、昨年手がけたMVでも、予算的に厳しいCGのカットや、物理的に撮れていなかったカメラワークに対してAIを積極的に導入した。
このように、生成AIは映像制作における新たな選択肢として、ここ数年で急速に現場にも浸透し始めている。では、実際の制作工程の中でAIはどのような役割を担い、活用されているのか。私自身が制作過程で実践するAI活用について紹介する。
私が制作過程で実践している、AIノウハウ
制作過程においても、AIの活用方法はクリエイターによってさまざまである。私自身も試行錯誤を重ねる中で、自分なりのAIとの付き合い方や仕事の進め方が少しずつ固まってきた。ここでは、私が現在の制作過程で実践しているノウハウを三つに絞って紹介する。
① AIへの指示は「設計」する
初期の画像生成AIの時代は、出力するたびにキャラクターの顔や絵のタッチが大きく揺れて、一向に目当ての絵が出てこないフラストレーションがあった。その大きな原因の1つは、AIへの指示があいまいだったという理由である。
今の私の現場では、その場の思い付きで言葉を並べてAIへ指示を出すことはほとんどない。映像のセッティングやアクション、キャラクターシート、カメラワーク、ライティング、感情、小道具といった情報をあらかじめ整理し、JSON形式を使って構造化した上でAIへ指示を出している。
AIに「お願いする」のではなく、AIが理解しやすい形で設計する。これによって、キャラクターの設定や世界観、トーンを揃えたまま、こちらが意図した通りのストーリーやビジュアルを安定して生成できるようになった。
② 高精度なコンテで、完成形を可視化する
次に、企画コンテ制作。これまでは、大きなプレゼンなどがあると、専門のイラストレーターへ依頼して企画コンテを制作していたが、今では私自身がAIを使い、その場で頭の中のイメージに限りなく近い高精度なコンテを仕上げている。
本番に近い完成イメージを企画段階から共有できるようになったことで、映像のトーンや解釈の違いによって起きていたクライアントとの認識のズレも、大幅に解消された。完成形を早い段階で可視化できることは、企画や演出の精度を高めるだけでなく、その後の制作全体をスムーズに進めることにもつながっていると感じる。
③ 音楽の方向性を素早く具体化する
アイデアを形にするためのAI活用は、映像だけにとどまらない。私は楽曲制作の現場でも、同じようなアプローチを取り入れている。
かつては作曲家に対して、自分がイメージする曲のニュアンスを鼻歌や簡単な演奏で伝えるという、かなりアナログなセッションをしていた。しかし今では、その鼻歌をAIに読み込ませることで、特定のジャンルの楽曲として成立したオーディオデータへと瞬時に変換し、それを参考音源として作曲家へ共有できる。
音楽の方向性を一瞬で具体化できることで、イメージの認識合わせにかかる時間も大きく短縮した。映像だけでなく、音の表現においてもAIは、頭の中にあるアイデアを形にするための強力なツールになっている。
ここまで紹介した仕事術は、私が現在の制作現場で日々実践しているAI活用の一例だ。次章では、これらの考え方や仕事術を、実際のCM制作でどのように実践したのか、事例をもとに紹介する。
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AI動画と映像監督の「不本意な蜜月」
AI動画は、まだ好きになれない。それでも、プロとして使わないわけにはいかない――。15年以上、実写をはじめとする映像制作の現場に立ってきた映像監督が、時に恐怖や嫉妬を覚えながらも、仕事では動画生成AIをとことん使う。実際の制作事例や試行錯誤を通じて、AIに何を任せ、人が何を担うのか。急速に変わる映像制作の現在地を、現場から本音でつづる。
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