AI動画と映像監督の「不本意な蜜月」

避けるのか、とことん使いこなすのか──明治のCMに生成AIを取り入れた映像監督の本音(2/2 ページ)

制作事例:明治「ザバス BIOPRO」シリーズ新CM

 前章でお話しした考え方や手法を取り入れながら企画・制作を担当したのが、明治の新商品「ザバス BIOPROホエイプロテイン 100ヨーグルト風味」の新CM。

 このCMでは、制作工程でAIを活用しただけでなく、映像表現そのものにもAIを取り入れている。なぜ今回、演出の中核にAIを採用したのか。そして、人が表現すべき部分とAIが担うべき部分をどのように考えたのか。私自身の映像制作に対する考え方も含めてお話ししたい。

 まずザバス BIOPROシリーズは、ザバスブランドに独自の乳酸菌を組み合わせた新しいプロテイン。今回のCMでは、新商品の価値を、これまでにない映像体験としてどのように表現するかが企画全体のテーマとなった。

 クライアントからの要望は、ザバスという確立されたブランド価値に独自の乳酸菌を組み合わせた、上位モデルとしての新しい登場感をしっかりと打ち出すことだった。ただ、現在のプロテイン市場は各社の製品が横並びになってきており、さらに食品広告には景表法や薬機法などの法令や業界のガイドラインに基づく表現上の制約があるため、プロテインと乳酸菌を組み合わせた新しい価値を、効果や効能で直接表現することには限界があった。プロダクトヒーロー型CM(商品そのものを主役として魅力を伝える広告手法)の見せ方では、世の中にあふれる広告の中に埋もれてしまうのでは?という課題もあった。

 そこで企画したのが、「プロテイン×乳酸菌」という画期的な商品であることを、言葉ではなく映像全体の世界観や空気感だけで感じてもらう、巨大なUFOが空を飛び交うSF映画のような映像表現だ。これまでにないスケール感で、新商品の登場を印象づけるためにも、現実では撮影できない圧倒的な映像体験が必要だと考えた。

 通常、このような映像を実現するには多大な予算をかけたCG制作が必要になる。そこで選んだ手法がAI。CGだけでは予算的に難しかった壮大な表現を、AIを活用することで制作費を抑えながら実現することができた。

「ザバス BIOPROホエイプロテイン 100ヨーグルト風味」の新CM

 このCMでは、架空の存在である宇宙人のキャラクターづくりも大きなポイントになった。ブランドの世界観になじむ絶妙な姿を模索するため、前章で紹介したJSON形式をベースに、キャラクターの設定や世界観、表情、質感などを細かく設計した上でAIに指示。そして、200体以上の宇宙人のビジュアルを書き出して検証を重ねた。

 また、背景や演出についても、AIだからこそ短いサイクルで試行錯誤を繰り返すことができ、クライアントとの認識合わせを重ねながら、理想の世界観へとブラッシュアップすることができた。

完成形のキャラクター
完成形のキャラクター

 私が何よりこだわったのは、全てをAIで完結させないこと。制作工程ではAIを積極的に活用しながらも、映像表現においては「AI」と「実写」を適材適所で組み合わせるアプローチを選択した。

 ブランドとしてのターゲットはアスリートやスポーツを日々行う人々。そんな彼らに敬意を払うという意味合いも込め、主となる出演者のモデルはスタジオにて実写撮影を行った。人間の肌感・存在感を極力リアルに近づけたいという意図もあり、AIが持つ表現力と、実写が持つ説得力を両立させることができた。

実写撮影
AI編集後

 その結果、映像のインパクトがフックとなり、法的な制限で直接表現しづらかった「プロテイン×乳酸菌の組み合わせ」という新しい価値も、SNS上でユーザーへ自然な形で伝わり、ポジティブな反応につながった。また、クオリティを維持しながら制作費を抑え、その分を広告配信へ投資できたことも、今回の成果の1つだったと思う。

まとめ

 今回紹介してきたように、生成AIは、企画から演出、映像表現まで、制作現場のさまざまな工程で実用的なツールとして活用されるようになっていることは明らかだ。

 そんな中でも、私は映像監督として、「どこでAIを活用し、どこを人が担うべきか」を常に意識しながら制作を進めている。企画や演出設計、ビジュアルの共有、世界観の構築など、AIが力を発揮できる工程では積極的に取り入れる一方で、最終的な判断や表現の設計は、今もなお人が担うべき役割だと考えている。

 総括して、私にとっての26年現在の制作におけるAI活用の現在地を表現するのであれば、ボタン1つで完成された映画を作ってくれるような魔法ではなく、これまで時間や予算の制約から諦めていた試行錯誤を、短時間で何度も繰り返せるようになったことだ。その試行錯誤の量とスピードを飛躍的に高めたことこそが、AIが映像制作にもたらした価値だと考えている。

 AI生成動画においてこれから問われるのは、AIツールが使えるかどうかではなく、そのAIを活用して、何を考え、何を試し、どのような表現へたどり着くのか。そのクリエイターならではの発想や感性、そして世界をどう「設計」するかという力が、これまで以上に作品の価値を左右する時代になっていくと私は考えている。

次回予告:「面白いAI映像」と「冷めるAI映像」とは?

 国内の生成AIに関する調査でも、広告の中に生成AI特有の違和感を覚えた結果、ブランドや企業への好意度や信頼度が低下するというデータが報告されているのを知っているだろうか。

 この記事を見たときに、私は1つの真理に近づいた。人間はAI動画に対してM-1の審査員並みに厳しい視線で「面白い or 冷める」をジャッジしているということだ。次回は、人が心理的に受け入れられる生成AI動画とそうでない物の違いについて掘り下げていきたいと思う。映像ディレクターとして日々AIと向き合う立場から、その「面白いAI映像」の正体をひもといていきたい。

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AI動画と映像監督の「不本意な蜜月」

AI動画は、まだ好きになれない。それでも、プロとして使わないわけにはいかない――。15年以上、実写をはじめとする映像制作の現場に立ってきた映像監督が、時に恐怖や嫉妬を覚えながらも、仕事では動画生成AIをとことん使う。実際の制作事例や試行錯誤を通じて、AIに何を任せ、人が何を担うのか。急速に変わる映像制作の現在地を、現場から本音でつづる。

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