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AMDとIntelの64ビット技術、わずかな差異が物語る両社の冷戦関係

» 2004年04月07日 15時09分 公開
[IDG Japan]
IDG

 AMDとIntelの採用する64ビット拡張技術は事実上同じもので、大きなソフトの互換性問題は起こらないはずだ――。市場調査会社In-Stat/MDRは4月5日、このような報告書を発表した(4月6日の記事参照)。ただし、AMDとIntelのアーキテクチャには小さな違いが存在しており、そこから、正式な交流を持たない両社がどのように互換性のある製品を成し遂げているかが見て取れるという。

 幹部同士が一緒にゴルフのラウンドを回って、打ち解けた雰囲気で交渉を進めるというよりも、IntelとAMDはエンジニアの働きや、技術文書、半導体テストを通じて、x86命令ベースのソフトが両社のシステムで機能するよう保証するという最重要課題に対処している。

 長らくライバル関係にあったSun MicrosystemsとMicrosoftは先週、協力態勢を整えるために矛を収めると決断(4月5日の記事参照)。過去の発言は、将来の行動を示唆するとは限らないということをIT業界に示した。しかし、AMDが64ビット対応x86プロセッサを市場に投入してから1年、最近Intelが同様のプロセッサをリリースする意向を明らかにしたことから、ライバル関係にある両社が今でも、言葉には出さないものの、非難めいたまなざしを向け合っていることが示されている。

 In-Stat/MDR発行の「Microprocessor Report」のシニアエディター、トム・ハーフヒル氏によると、綿密な試験の結果、次世代のAMD64アーキテクチャにはIntelのExtended Memory 64 Technology(EM64T)には見当たらない命令が2つだけ見つかった。

 AMD64はこの2つの命令を、高速コンテクスト切り替え(アプリケーション間の多重タスク処理)などを強化するために導入しているとハーフヒル氏。

 ユーザーが2つのアプリケーションを切り替える場合、OSはプロセッサの特定の場所にデータを一時的に保存し、初めのアプリケーションに戻された際にその情報をリロードする。この切り替えは1秒間に何十回と行われ、ほとんどユーザーには意識されないようになっていると同氏は説明している。

 この2つの命令によって、データは個々のデータポイントとしてではなく、グループとして保存・ロードされるようになるという。同氏は、パフォーマンスは多少向上するが、普通のユーザーが気付くようなものではないと述べている。

 互換性問題が出てきたとしても、恐らくソフトウェアパッチで対処されるだろうと同氏。いずれにしても、AMD64アプリケーションのインストールベースは初期の段階にあり、ほとんどの開発者がこの問題に対処できるようになっているという。

 こうした命令は、現在出回っているAMD64プロセッサには存在しないが、今後のバージョンに組み込まれるだろうとAMDフェローのケビン・マクグラス氏。これら命令の追加は、一部のソフト開発者から要望があったもので、彼らの開発するアプリケーションは特定の場面でその恩恵を受けると同氏は話している。

 Intelの広報担当者は、まだEM64Tアーキテクチャに基づく半導体を発売していないことを理由に、同アーキテクチャの特定の命令に関するコメントを避けた。

 Intelのアーキテクチャに2つの命令が欠けていることから、ライバル関係にある両社が、アーキテクチャの進展や修正に関する正式な情報共有なしで製品間の互換性を確保するために、どれだけ骨を折っているかが浮き彫りにされている。

 IntelとAMDは広範なクロスライセンス契約を結び、Intelが20年以上前に特許を取得したx86命令セットなどの特許技術の利用を互いに認めている。x86命令セットは現在、両社ともプロセッサを動作させるために導入している。両社間の競争は激しくなっているにもかかわらず、この契約は1976年の締結以来守られている。

 「冷戦のようなものだ。AMDとIntelの関係は恐らく、かつての米国とソビエト連邦の関係と同じくらい冷え切っているだろう」とハーフヒル氏。

 しかし、両社は製品間の互換性を確保することに前々から関心を示してきた。アナリストや両社に近い筋によると、Microsoftにはx86 64ビット拡張技術対応のWindowsを2バージョンに分けて開発する考えはない。Microsoftは既にAMDの技術に対応したバージョンを出すと約束しており、Intelはそれに同調するしかないのだ。

 AMDは数年前、AMD64アーキテクチャに関する計画を発表した後、ソフト開発者が互換アプリケーションを開発できるように、大量の技術文書を公開した。Intelは恐らく、AMDのマニュアルを細かく調べ上げ、どの命令が64ビット技術に利用されているのか突き止めて、自社版の64ビット拡張技術を設計したのだろうとハーフヒル氏は指摘する。

 AMDはクロスライセンス契約を最初に結んで以来、Intelプロセッサに対して同じことをしていたと同氏。しかし今回ばかりはIntelも、互換性のある製品を製造するために、骨を折って他社の開発者向けマニュアルを調査しなくてはならなくなったという。

 ハーフヒル氏は調査書に「AMDは過去にx86アーキテクチャに幾つか革新をもたらしてきたが、今回は初めて同社が、世界で最も重要なマイクロプロセッサ――Intelが1978年に発明して以来、26年にわたって防衛してきた――の行方を決めることになる」と記している。

 こうした問題をめぐり、両社の間には正式な協力関係はない。ハーフヒル氏によると、両社は実際、幹部クラスの話し合いをほとんど行っていない。両社のエンジニアはハイテク業界の展示会やカンファレンスに出席しており、こうした互換性問題は両社間の緊張にかかわらず自然と修正されるものだ。

 「互換性は最も重要だ」とAMDのマクグラス氏。AMDとIntelは、互いの仕様書や技術マニュアルを徹底的に読み込み、製品の互換性を確保するために時間をかけて互いのプロセッサをテストした。

 Intelの本社はAMDの本社から目と鼻の先にあるし、両社の事業は互換性のある製品を製造することが前提となっているのだが、両社の間にはアーキテクチャに改善が加えられたときに、それを共有する正式な手続きがない。このことは両社とも認めている。

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