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「市内全戸を光ファイバー化」目指すレイキャビク

» 2004年06月08日 19時22分 公開
[IDG Japan]
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 アイスランドのレイキャビクは記録を打ち立てるのが好きだ。2003年4月、同市は世界で初めて公共の液体水素燃料の補給所を設置した。さらに世界最大の地熱システムで、家々や通りまでも暖めている。同市は今、世界で初めて全世帯にファイバー接続が導入された市になろうとしている。

 4年前に光ファイバー・バックボーンネットワークを設置して以来、市営電力公社Reykjavik Energyは、500カ所の変電所をファイバーで結び、変電所から家庭にファイバーを引く作業を開始した。昨年には100世帯で試験導入が行われ、今年4000世帯、2005年に1万5000世帯、そして5年以内にレイキャビクの6万5000世帯すべてにファイバーを導入することを目指している。

 「われわれの接続ポイントは顧客に非常に近い」とReykjavik Energyの事業開発ディレクター、ソルレイファー・フィンソン氏。「ラストマイルではなく、ラストクォーターマイルだ」

 全世帯にファイバー接続を導入するのは大変なことのように思えるが、フィンソン氏によると、Reykjavik Energyは各家庭につながった広範な水道管と電線のネットワークを地下に有している。同社がこれらケーブルの定期メンテナンスを行う際に、作業員が地下にファイバーを敷設する。これにより、ファイバー敷設のために地面を掘る必要が大幅に少なくなる。

 Reykjavik Energyは昨年の試験導入で、スウェーデンの会社PacketFrontのスイッチを対象世帯に設置し、100Mbpsの接続を提供した。この壁掛け式スイッチは一方ではファイバーに接続し、もう一方にはイーサネットポート8基を備えている。ポートのうち4基はIPセットトップボックス(STB)用で、2基はインターネット接続用、残りの2基は汎用となっている。

 この試験では数社のSTBを利用したが、Reykjavik EnergyはIBMのVulcanチップを搭載したAmino Communications製STBに統一することを検討している。またレイキャビクのコンサルティング会社Industriaが、セルフサービス式のポータルユーザーインタフェースを提供している。このソフトはビデオ・オン・デマンドやIP電話、ネットワーク型セキュリティシステム、インターネットサービスなど、ネットワーク上で利用できるサービスを表示する。

 Reykjavik Energyはコストの見積もりを明かそうとしないが、Industriaが見積もったところでは、全世帯にファイバーを通すのには最低でも1軒につき1250米ドルほどかかるという。これにはスイッチ、ルータ、宅内機器にかかる約475ドルの「アクティブ」コストと、パイプ、ケーブル、人件費にかかる775ドルの「パッシブ」コストが含まれる。Reykjavik Energyがこれらの導入コストを支払っている。

 同社はインフラを提供し、パートナーがサービスを提供する。「われわれのネットワークはすべてのサービス会社に開かれている。顧客が各種のサービスを稼動させ、各サービス会社に直接料金を支払う。そこが利点だ」とフィンソン氏。顧客が何らかのサービスを稼動させると、同社は利用されるサービスの数に関係なく固定額の月額回線利用料を課し、さらにサービス会社から売上の一部を受け取る。

自宅がオフィスに

 このファイバー化計画により、企業は仕事場を従業員の自宅にまで拡大できる。レイキャビクのAir Atlanta IcelandicでCIO(情報統括責任者)を務めるステファン・グジョンセン氏は、この試験に参加し、自宅の回線を在宅勤務に利用している。

 「オフィスにいるのと何ら変わりなく接続できる。大きなデータストリームを処理するアプリケーションを使う時でもそうだ」とグジョンセン氏。同氏は自宅から、飛行機の部品管理・メンテナンススケジューリングなど、帯域を大きく消費するアプリケーションを実行している。「このプログラムは1回のクエリーにつき、1秒間で1メガビットを処理する。私の100Mbpsの回線では30秒かかる。DSL回線ではこれほど速くはできないだろう」。同氏は会社のネットワークにつながったIP電話も自宅で利用している。

 FTTH(fiber to the home)を使えば、従業員は自宅からDVD品質の映像で、リアルタイムのビデオ会議や録画された講習会に参加できる。逆に、職場から自宅にいる子供の様子を見たり、会話をすることもできるだろう。「ホームオフィスが本物のオフィスとまったく同じ、という環境を作り出せる。これはあらゆる人に恩恵をもたらす。雇用主はスペースを節約でき、従業員はより柔軟に働ける。従業員に(自宅から)接続させれば、彼らからさらなる成果を引き出せるため、企業にとって利益になるはずだ」とグジョンセン氏。

自宅がテレビ局に

 DVD品質のビデオの送受信は、仕事場をレイキャビクの家庭に拡大する上で重要なカギとなる。ビデオアプリケーションの将来性を実証しようとする取り組みは既に行われている。ユーザーインタフェースの設計を担当したIndustriaのグジョン・マー・グジョンソン氏は、同市の試験に参加した1人だ。「3時間で、800ドルの費用で自宅にテレビ局を設置できた」と同氏。この設備には、MPEG2コーデックと無料のMicrosoft Windows Media 9エンコーダが含まれる。ユーザーはIPマルチキャスト技術を使って、全市あるいは特定の視聴者に向けて「放送」できる。グジョンソン氏は今のところ、自分の「テレビ局」をデモにしか使ったことがないが、企業にメリットがあると見込んでいる。「DVD品質のビデオストリームを、チームで仕事をしている従業員の間で流すことができる。品質は完ぺきで、コストは非常に安い。この設備は(小売サイトの)Radio Shackで買える」と同氏。

 セキュリティが懸念事項となることは明白だ。レイキャビクの金融サービス専門システムインテグレータ24Tは、同市のFTTH導入に向けてテレバンキングサービスを開発している。このサービスでは、窓口係が顧客の取引を手伝えるように、銀行のコールセンターとの双方向音声通信と一方向ビデオ通信が可能だ。

 「マルチキャストストリームを銀行のネットワークに流すと、ファイアウォールに問題が生じる。Ciscoがやっと、マルチキャストVLANレジストレーション(MVR)によって、ファイアウォール経由でこの種のトラフィックを誘導するようになった」と24TのCEO(最高経営責任者)ハルダー・アクセルソン氏。MVRは、ポートの加入者がマルチキャストストリームに加入・脱退できるようにする。

 Reykjavik Energyは、FTTHが成功すると確信している。「10年もすれば、イーサネットなしのアパートを売るのは、電気の通っていないアパートを売るのと同じようなことになるだろう」とグジョンソン氏は語る。

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