最高気温34.8度。カンカン照りの太陽の下、ナイロン製の長袖作業着をぴっちり着込んだ男性が記者を迎えた。見るからに暑苦しいそうだが、涼しくて快適だという。――信じられない。
この作業着、実際着てみて驚いた。涼しい、いや、寒いくらいだ。「汗をかいてると、とりわけ涼しいんです」と、作業着に身を包んだ男性――開発したピーシーツーピーの市ヶ谷弘司社長――は涼しい顔だ。
「空調服」という名のこの作業着、背中についた2基のファンが、体全体に風を送って汗を気化。気化熱で体が冷えるという仕組みで、お風呂上がりの濡れた体に扇風機が心地よいのと同じ原理だ。
体が汗臭くならないのも空調服のメリットだ。「汗が臭くなるのは、衣服に汗がついて雑菌が繁殖するため。汗をすべて気化させてしまえば、臭いは全くしないし、“あせも”も防げる」(市ヶ谷社長)。
「Tシャツやタンクトップなど今までの夏服は、最も涼しい状態である“裸”に近づこうという発想。しかし、服を着た方が裸より涼しい、という逆の発想もあっていいんじゃないか」――元ソニーの開発者で、発明好きな市ヶ谷社長はそう話す。
ソニー時代からブラウン管関連の開発を手がけ、独立後もブラウン管関連の計測器を開発していた市ヶ谷社長。彼が突然、ブラウン管の世界を離れ、空調服開発を始めたきっかけは、東南アジアの旅だった。
「このままでは、地球が危ない」――そんな危機感が、彼を空調服開発に駆り立てた。
6年前、市ヶ谷社長は、東南アジアにある取引先のTV工場を視察した。暑い中、クーラーなしで作業する作業員の姿が目に留まった。
「今はクーラーを使っていない発展途上の国の人たちが将来、日本人のようにクーラーを常用するようになったら、エネルギー危機が起きる」――そう思った市ヶ谷社長は省エネルギーな冷却装置を作ろうと決心。6年にわたる空調服開発が始まる。
1999年に開発した0号機は、水タンクを装備した「水冷式」。ポンプでタンクの水を吸い上げて服の裏側に吊るした冷却用の布を濡らし、空気を送って水を気化させることで涼しくする仕組みだ。「冷却効果抜群で寒いほどだったが、汗をかいた時に冷却布が体に張り付いて不快だったので」(市ヶ谷社長)この方式は断念した。
水タンクをわざわざ用意しなくても、汗の水分を利用すればいいと気づいた市ヶ谷社長。ファンを搭載した空調服1号機を2001年に試作した。1号機はファンが小さく、体全体に風を回すにはパワー不足。タンクトップ型にし、肌に布が張り付かないようプラスチックのスペーサーをつけて涼しくしたが、肌触りが悪かった。
不快なスペーサーなしでも十分涼しい服にするため、パワフル・省電力で、静音なファンの試作を重ねること3年。今年4月、やっと満足いく製品が完成し、発売にこぎつけた。
現在発売中の空調服、特に作業服タイプは品薄状態。来年からの本格発売に向け、工場などで試験利用してもらっている段階だが、導入済みの工場では大好評で、サイズや素材の幅を増やして欲しいとの要望がひっきりなしだという。
Yシャツタイプは、M、L、LLの3サイズ。こちらは在庫がまだ豊富だという。価格は全タイプともに9900円(税込み)。
来年以降、サイズやデザインの幅を広げ、本格的に販売開始する予定だ。
「10年後の夏には、空調服が当たり前になっていて、、『夏にTシャツを着るのっておかしいよね』なんて会話がされるようになれば」(市ヶ谷社長)。
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