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“DRAMパニック”はなぜ起きたか、価格はいつ落ち着くのか? 狂騒の裏で起きていること(1/5 ページ)

» 2025年12月12日 08時00分 公開
[大原雄介ITmedia]

 米Micron Technologyが12月3日(現地時間)、消費者向けの事業部門であるCrucialブランドの事業廃止をアナウンスした話はすでにITmedia NEWSでも報じている通りだ。背景にあるのは11月に入り、突然に発生した先端プロセスを利用するDRAMの品不足である。

 このDRAMの品不足に関して、製造業向けの専門媒体「TechFactory」及びエレクトロニクス業界誌「EE Times Japan」(どちらも内容は同一)で簡単な考察を既に示しているが、業界向け記事ということでいくつか説明をすっ飛ばしているところがあるので、もう少し分かりやすく紹介したい。

原因は長期契約における“狼狽買い”?

 「この状況がなぜ起こったのか」というと、筆者は基本的に、DRAMの長期的な取引形態におけるPanic Buy、つまり“狼狽買い”が原因と考えている。

 まず大前提として、DRAMベンダーにおける製品の作り方を簡単に説明したい。以下の画像は、2025年2月に行われたMicronの1γnmプロセスに関する説明会で示されたロードマップだ。最近DRAMベンダーはプロセスを示すのに数字ではなく記号を使うようになっている。

photo ちなみに1αnmは21年1月に、1βnmは22年11月に量産出荷開始しており、そろそろ1γnmの量産出荷のアナウンスが来ると思っていたのだが、その前にCrucialを畳むニュースが来るとは

 Micronの場合、17年中旬に「1xnm」、18年後半に「1ynm」、19年末に「1znm」という具合に少しづつ微細化を進めている。25年2月時点では「1αnm」を経て「1βnmプロセス」がメインだが、ロードマップはこれに続く「1γnm」プロセスのサンプル出荷も開始した、という話である。

 このDRAMの技術そのものは、Micronが提供している全てのDRAM製品(DDR4/5、LPDDR5/5X/6、HBM2/2e/3/3e/4、GDDR6/7)で共通しているが、あくまで技術が共通しているだけで製品としてはそれぞれ異なる訳だ。

 というのはDDRとLPDDR、HBM、GDDRでは動作周波数も電圧もI/Fも内部のセルの構成(セルそのものは同じだが、そのセルがどういう形でI/Fからアクセスできるかという部分が異なる)も違うので、作り分けが必要になる。

 Micronは自社で複数のFab(製造拠点)を保有しているが、DRAMに関しては米アイダホ州ボイズのFab 4(R&D)と台湾桃園市のFab 11、Fab A3、広島のFab 15、台湾台中市のFab 16がある。この中で1γnmプロセスに必要なEUV(極端紫外線露光装置)を導入しているのはFab A3だけ。実際1γnmプロセスのサンプル品の生産は桃園市のFab A3と広島のFab 15の協業(EUVを使う処理はFab A3で実施し、それ以外はFab 15で実施)という話だった。

 もちろんこれはサンプル品だからこんな悠長な処理が取れる訳であって、量産には向かないのだが、これはこの際置いておく。現実問題としてMicronのDRAMの生産はほぼ米国外で行われており、これを米国内に戻すべく25年6月に米国内に合計2000億ドルを投資して製造設備を新設する計画を発表している。

 話を戻すと、このFab 11/15/16/A3の全てで先端(1βnm)プロセスが使える訳でもないので、先端プロセスのラインは製品群での奪い合いになる。これはMicronだけでなくどこのメモリメーカーも同じで、例えば生産量の20%をHBM、50%をDRAM、30%をLPDDRといった具合に作り分けることになる。

 こう書くと簡単そうに見えるが、ラインに流す製品を切り替えるのに相応の時間がかかるので、なるべく切り替えを減らせるようにする必要がある。加えて、需要が発生してから生産能力を増強しても数カ月単位のラグが生まれるので、メモリメーカーは慎重に需要を先読みして生産計画を決めることになる。

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