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医療記録とDNAデータを結合するコンピュータ言語、IBM研究者が開発

» 2004年09月10日 16時22分 公開
[IDG Japan]
IDG

 「個の医療」の実現に向けた大きな取り組みが進められる中、米IBMの研究者らが、患者の診療記録を含むDNAコードの「スマート」ストリームを生成するコンピュータ言語を考案した。

 この論文はIBMワトソン研究所のバリー・ロブソン氏とリチャード・ムシュリン氏によるもので、7月に『Journal of Proteome Research』のオンライン版で発表された。印刷版は来月発行される。

 この論文によると、彼らの考案した「ゲノミック・メッセージング・システム」(GMS)は、「臨床記録と、患者のDNAシーケンシング(DNA塩基配列の解析)を行う研究所からの解析結果などのデータ統合といった、臨床データとゲノムデータの(シームレスな)圧縮、暗号化、伝送を」可能にする基本的なコンピュータ言語であるという。

 つまりGMSは、医療とそれを支える情報をDNAデータストリームに組み込むことを可能にし、人間とコンピュータが生成したコンテンツをゲノム一次配列に追加していく。論文の執筆者らは、このストリームが「統合された医療記録(Integrated Medical Record:IMR)すべてを保管・伝送可能」であると示唆している。

 GMS言語は、「カートリッジ」と呼ばれる「プラグイン」スクリプトを介して適切な間隔でゲノム配列ストリームに挿入され、それにより患者の医療記録と遺伝子記録を組み合わせるか、一次配列に注釈を付ける。GMSはまた、関連のある医療データをリンクし、セキュリティパスワードを提供する。同じ技法を使って、患者のレントゲン写真とMRI(磁気共鳴画像)のデータをエンコードすることも可能だ。

 データが集められてGMSシンタックスで記述されると、エンコードプロセスが開始され、データは小さなバイナリに変換される。GMSは塩基を2ビットで表す(A=00、G=01、C=10、T=11)。コードにはXML機能を持つPerl 5と、Javaが用いられる。エンコードされた暗号化ストリームはそれから受信側システムに伝送され、解読される。解析結果は将来的に(患者のプライバシーは守りつつ)研究用に特別に調整されたり、治療目的に使われる可能性がある。

 「GMSはデジタル化された患者の記録をリンクし、さまざまなバイオ情報科学とコンピュータを駆使した生物学ツールによって、これらを解析可能にする」とロブソン氏。これらツールには予期していない関係を発見するデータマイニング、大規模な疫学研究、SNP(一塩基変異多型)の影響を研究するための患者のたんぱく質の3次元モデリングなどがある。

 論文で挙げられた一例で、ロブソン氏とムシュリン氏は、イスラエルにあるIBM施設から提出された医療データと(臨床研究所をシミュレートしている)IBM New YorkからのDNAデータを統合した。その患者のDNAデータを基に、両氏はGMSを使って、免疫抑制薬における多様な結合性の影響を評価する手段として、免疫組織適合遺伝子タンパク質においてエンコードされたその患者のSNPをモデリングした。この研究はまだ予備段階にあるものの、適切な医薬品管理に関する決定を下す際に、患者個人の遺伝子データをどのように考慮に入れられるかを示すものだ。すべての解析プロセスに要した時間は約1分だった。

 ロブソン氏とムシュリン氏は、GMSは「遺伝子データが少なくとも部分的に関連している臨床・生物学関連のITネットワークにおいて、あらゆる接点において『スマートな』多分岐型のプラグインアダプタになる」と確信している。さらに両氏は今回の研究がまだITの視点に立ってコンセプトを実証したにすぎないことを認識しつつも、薬学的な観点から見て、「GMSレベルの貢献では、根本的に異なる情報技術が必要であると信ずる理由はない」と主張している。

 両氏はこの論文の中で、スーパーコンピュータ「Blue Gene」の担当ディレクター、ウィリアム・プリーブランク氏を含むIBMの同僚数名の、「DNA情報を含む患者記録が単なるSFとしか見られなかった初期のころからこうした研究を立ち上げた勇気に対して」謝辞を表している。

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