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英政府で「史上最大」のシステム障害、公務員8万人に影響

» 2004年11月29日 12時46分 公開
[IDG Japan]
IDG

 英政府は先週、数日間にわたるITシステム障害に見舞われ、雇用年金省(DWP)に勤務する8万人もの公務員は、地元メディアが言うところの「英政府史上最大のコンピュータクラッシュ」に対処しなければならなかった。

 11月22日、DWPが「日常的なソフトウェアアップグレード」を実施していた際にシステム障害が発生し、同省の10万台のデスクトップマシンの約80%が機能障害あるいは完全な機能停止に陥ったと同省広報官は26日に説明した。問題は25日いっぱいまで続いたが、「システムの大半は回復し、現在は稼動している」という。

 DWPのネットワークは、20億ポンド(38億米ドル)のIT契約の一環としてMicrosoftとElectronic Data Systems(EDS)が運用している。

 Microsoftは26日、状況の改善とDWPの支援に向けてパートナーと緊密に取り組んでいるとの短い談話を発表したが、それ以上のコメントを避けた。なおEDSの代表者には連絡が取れなかった。

 DWPの最高責任者アラン・ジョンソン氏は、システム障害および今回の事故におけるMicrosoftとEDSの責任について内部調査を実施すると約束した。

 DWPは、約2400万人を対象としたさまざまな給付金の支払いを担当している。同省はメインフレームコンピュータは影響を受けていないとし、今回のコンピュータ障害が顧客に与える影響は小さいと主張するに努めた。「新規および変更のあった給付金申請の手続きは遅れるが、緊急時対応計画を通じて問題に対処している最中であり、被害は最小規模にとどまる」とDWP広報担当者はコメントした。

 障害の原因は、互換性のないシステムがネットワーク全体にダウンロードされたことにあると考えられている。これにより、電子メールアカウントにアクセスできなくなった職員はFAXの使用を余儀なくされ、また一部の支払い用紙を手書きで処理しなければならなかった。

 今回の問題はDWPがこれまでに経験した一連の深刻なシステム障害の最新のものに過ぎない。同省の児童援助局(CSA)は、EDSから導入した8億6300万ドルのシステムの問題に見舞われており、このシステムではまだ給付金を待ちわびる「ひとり親」の8分の1にしか支払いが済んでいない。ジョンソン氏は先日、児童援助に関するケースマネジメントならびに電話システムの閉鎖を検討していると下院特別委員会に伝え、CSAの責任者ダグ・スミス氏が辞任した。

 また公務員労働組合(PCS)のマーク・セルウォッカ書記長は26日、今回のコンピュータ障害を踏まえて、IT合理化に基づく3万人削減計画を延期するよう政府に要請した。今年初め、英政府は新たなITシステム導入による効率性向上などから、政府全体で10万4000人の公務員削減計画を発表した。

 2001年以降、DWPはCSAシステムを含むさまざまなITプロジェクトに約42億5000万ポンドを投じている。下院特別委員会に提出された報告書によれば、DWPは管理およびITコンサルティングに3億6700万ポンド、5150万ポンドを業務代行ならびに請負企業に、5430万ポンドをプロフェッショナルサービスに費やしている。

 2003年および2004年に英国公共セクターが実施したITプロジェクトのコストは124億ポンドを超える見通しだが、英政府のITプロジェクトに対してはしばしば「野心的すぎて大幅な遅れと超過コストを生じがち」との批判が出ている。

 このような例はDWP以外にもある。郵政省、社会保障省(DSS)、International Computers(ICL)による給付金決済カードプログラムは、3億ポンドの資金が投じられたが3年で中止された。Swanwick航空交通管制センターではソフトの問題からスケジュールが遅れ、この問題はその後、航空機2機のニアミス事件の原因になったと批判されている。1999年には旅券発給局が導入した新しいコンピュータシステムに障害が起き、国外旅行を計画していた数千人に影響が及んだ。全英プロベーション(加害者更正)サービスでは判例記録・管理システムが導入される予定だったが、計画が2年遅れ、予算を70%オーバーするとの見通しが明らかになり、中止となった。

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