「オタク市場はもはやニッチではない」――8月、野村総合研究所(NRI)がオタクにフォーカスした市場調査結果を発表。オタク市場規模はデジカメ市場を越える2900億円に上ると結論付けた(関連記事参照)。
NRIがなぜ今、オタクを調査したのか。オタクが日本経済に与えるインパクトとは何か。調査を担当したNRIの情報・通信コンサルティングニ部の北林謙副主任コンサルタント、守岡太郎副主任コンサルタント、小林孝嗣上級コンサルタントと、同一部の塩野正和さんに話を聞いた。
オタク調査の目的は、アニメやゲームなど、国内外で大きな注目を浴びているコンテンツ産業の実態を解明すること。同部の研究員ほぼ全員が「オタク分野に少なからず身に覚えがある」(北林さん)ことも、調査開始の強力なドライブになった。
調査は、オタクという言葉からすぐに連想される分野――「アニメ」「アイドル」「コミック」「ゲーム」「自作PC」――の5つをまずカバー。研究員はそれぞれの得意分野を担当した。
分野の選定には、アンケートや「2ちゃんねる」のスレッドカテゴリー、スレッド数も参考にした。調査は今後、車やAV機器、鉄道、旅行、ファッションといった分野にも広げ、結果を順次発表する計画だ。
オタクの定義は難しい。「ここからがオタクで、ここからは違う、という決まった点はない」(小林さん)。共通項をあえて出すとすれば、時間とお金の費やし方だ。可処分時間/所得のうち、対象物に費やす割合が極端に高い人がオタク、というわけだ。
調査から、オタクは「理想像を追求する『情熱』『消費』『創造』のスパイラル」と位置付けた。「こうあるはずだ」と思う究極の商品――PCやアニメキャラ、想像上のアイドルなど――を理想化し、探求するのがオタクを突き動かすエネルギーだという。
理想追求の情熱が消費エネルギーになるため、価格は二の次。高価だったり、限定された時期・場所でしか手に入らないなど購入のハードルが高くても、惜しみなく投資する。理想像に近づき、思い入れが激しくなればなるほど消費のスピードも増し、どんどん深みにはまっていくという。
オタクの消費エネルギーは、経済力ではなく情熱をベースにしているため、景気変動の影響を受けにくい。コンテンツやハード市場を下支えする安定した市場をオタクが形成しているという。
オタク層を固定客として取り込み、高価な商品を継続的に買ってもらいたい――そう考える企業もあるが、同市場を安易に狙うと落とし穴にはまる。「オタクは敏感。オタクでない人が、『オタクはこれでも買うだろう』と安易に作った商品は、反感を買う」(守岡さん)。
ただ、オタク狙いの商品であっても、同じオタクが手を抜かずに作った質の高い商品は尊敬・共感され、受け入れられるという。その例が、英単語集「もえたん」や、オタクを題材にした漫画・アニメ「げんしけん」だ。
「もえたんは、オタクが手を抜かずに作ったから受け入れられた」(守岡さん)。「げんしけんは、オタクが『イタイ』と言いながらも見ているアニメ」(小林さん)――げんしけんは、明らかにオタクをターゲットにしていながら、共感やリスペクト、郷愁を感じさせる作りになっているためヒットしていると、小林さんは分析する。
「オタク市場に物を売りたければ、オタクになるか、オタクのフリをして決してボロを見せないことが必要」(小林さん)
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