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10年後に向けマルチコアの先“Many Core”へと向かうIntel(3/3 ページ)

» 2005年03月04日 22時03分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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メニーコアの実態はどうあるべきか?

 ラトナー氏の講演は、デュアルコア、そしてマルチコアへと進み、ソフトウェアやハードウェアのベンダーに、マルチスレッドを用いた新しいアプリケーションの実装を促すものだった。しかし、示されたラトナー氏のビジョンは、10年後を見据える上で妥当なものなのだろうか?

 ラトナー氏は質疑応答で、ウエハースタック数について訊かれ「技術的にはもっと多くを重ねる事も可能だが、コスト的にリーズナブルなのは8枚ぐらいまでだろう。スタックは単純に異なる機能のチップを組み合わせるだけでなく、異なるダイだからこそ可能な制御もある。ダイごと電源をオフにしたり、クロックをダイごとに変化させたり、ホットスポットを分散させたりと、設計次第で様々な使い方ができる」と話している。将来のアーキテクチャーとして有望であることは間違いなさそうだ。

7枚のダイスタッキングの例 CPU、DRAM、フラッシュメモリ、アナログ回路のダイを重ねるダイスタッキングの例

 しかしメニーコアが、本当に業界のパラダイムを変えるか否かは、議論のあるところだろう。そもそも、いくら並列プログラミングが進化したところで、本当に能力的にスケールするのか? 投資に見合う結果が得られるのか?疑問は尽きない。

 まずメニーコアの基本的な使い方に関してラトナー氏は「100個といったメニーコアを考えるとき、いくつかのパーティションに分けて使うことになるだろう。アプリケーションごとに必要なコア数を確保し、役割ごとに区分して利用する。プロセッサのパイプラインはアプリケーションごとに分割して利用できないが、メニーコアならばそれが可能だ」と説明した。

 ではすべてのコアは、同じ機能を持つべきなのだろうか? たとえば、汎用プロセッサが不得手な処理まで、インテルプロセッサのアーキテクチャーのまま処理することが正しいのだろうか?もちろん、メインの処理系は汎用であるべきだろう。しかし、数多くのコアが統合可能な時、すべてのコアが汎用プロセッサである必要はないようにも思える。

 「たとえばIntel I/O Acceleration Technologyは、すべてのコンピュータが用いるTCP/IPのネットワーク処理について、ハードウェアで専用の処理系を設けたものだ。アプリケーションシナリオによっては、専用プロセッサの方が効率的でパフォーマンスも引き出しやすいかもしれない。しかし時間が経過すれば、汎用プロセッサが改善され、専用プロセッサを設けるよりも良い結果を得られる場合もある。要はバランスであり、バランスの取り方はアプリケーションやその時代によって変わっていく(ラトナー氏)」

 実際、これまでは専用プロセッサを搭載するよりも、高速な汎用プロセッサを搭載する方が効率は良かった。汎用プロセッサの能力拡大は、ほとんどのアプリケーションに対して良い結果をもたらす。専用プロセッサは、特定機能を実現するコストこそ安いが、トータルパフォーマンスとコストのバランスを考えると、やはり汎用プロセッサという結論になる。

 だが、このルールは少しづつ変わりつつあるのかもしれない。

メニーコア時代のプラットフォーム Intelが描く2015年のコンピューティングプラットフォーム

 メニーコアの実態がどうあるべきか? という議論は、インテルプロセッサの将来を考える上で重要なポイントだが、その大前提となるアプリケーションに関して、今ひとつ明確なビジョンがないと思うからだ。

 ラトナー氏が冒頭で示した“直感的で分かりやすく、インテリジェントで、人間にやさしい技術”というテーマは、今、生まれたものではない。数10倍、数100倍といった、これまでの計算能力向上の中でも実現できなかった事ばかりだ。果たして、そのためだけにメニーコアへと進むことがリーズナブルな、言い換えれば普及するアーキテクチャーなのか? と言えば疑問もある。

 一方、10年後ではなく、10年前を思い出してみると、Webが生まれNCSA Mosaicが世の中を変えようとしていた時代へと行き当たる。その後、確かにコンピュータは進化を遂げた。しかし新しいアプリケーションが生まれたか? と言えば、今もやっているのは10年前と同じ事である。

 メニーコアになるという10年後の世界、果たしてユーザーインターフェイスの改善というテーマだけで、業界のパラダイムを変えることができるのだろうか? 業界のリーダーとしてのIntelに期待を持ちつつも、10年間、変わることができなかったPC業界への不安がよぎる。

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