Patriot Act(米反テロ法)の下、米企業に対して顧客の記録などの極秘情報の提出を求める米政府の権限が拡大された。そしてプライバシー擁護派は過去3年間、こうした政府権限を縮小させようと奮闘してきた。だが、米議会指導者らは、政府の権限を縮小するどころか、逆に拡大・恒久化しようとしている。
反テロ法は、2001年9月11日の同時多発テロを受けて急ピッチで制定された法律で、同法の中でも最も抑圧的な条項の幾つかが、今年末で効力を失う予定となっている。企業一般に最も関連の深い条項の1つに第215条がある。この条項の下では、米連邦捜査局(FBI)は、テロに関連した捜査のためであるということを秘密裁判所の米外国情報活動監視裁判所(FISC)に対して明言するだけで、情報提出を求める召喚状を取得できる仕組みとなっている。
先週、米上院情報特別委員会の非公開会議で、FBIによる召喚状取得手続きをさらに簡単にする法案が承認された。FISCに申請しなくてもいいようFBIに「行政召喚」の権限を与え、基本的にFBIが自ら、命令書を作成・承認できるようにしようという法案だ。
上院情報特別委員会のパット・ロバーツ委員長(カンザス州選出・共和党)は、反テロ法を「テロとの戦いに不可欠なツール」と呼んで新たな法案を擁護、これによって「市民の自由を守るための均衡と抑制がさらに促進される」とした。
215条に基づいて情報提出命令を受けた企業は、現状、命令を受けたと口外することを禁じられているが、今回、上院委員会が承認した権限修正法案では、命令の存在を公表していいことになっている。また、FISCが承認した命令に対する異議申し立てのための明確な手続きを設けるという内容になっている。
しかし、市民権擁護派は、この法案はFBIがFISCから承認を得る必要性そのものをなくしてしまうものだと反発している。
米国自由人権協会(ACLU)ワシントン支部の立法問題担当弁護士、ティム・スパラパーニ氏はこう語る。「われわれは上院委員会がFISCを蚊帳の外に置いたととらえている。政府機関がFISCに伺いを立てる必要がなくなるからだ」
FISCから召喚状を取る場合、通常の召喚状の場合と異なり、法執行機関は、対象が犯罪にかかわるものだと信ずる根拠を明示する必要がない。アルベルト・ゴンザレス米司法長官による先の証言によれば、反テロ法の成立後、ホテルや共同住宅、ISPなど、多数の企業に対してこうした命令が下された。
米産業界は、政府の記録押収権限の拡大に対し、概して沈黙を保っている。215条の命令に従ったことは秘匿され、法的責任を問われることがないため、政府から顧客の個人情報提出を求められる機会が増えても、企業にとって、異議を唱えるだけの動機が財務的にも法的にもない状態だ。
「企業はどこも、テロに甘いというレッテルを張られることを恐れている」とスパラパーニ氏。「(この件を論じることが)企業PR上まずいのは明らかだ。ほとんどの企業は、無関係でいたいと願っている」
ホワイトハウスは、反テロ法の恒久化に向けて、議会への圧力を強めており、ブッシュ大統領はオハイオ州コロンブスで先週、支持を求める演説を行った。
「テロリストのわが国への脅威は今年末に終わるわけではなく、従って反テロ法による保護も終わらせてはならない」と大統領。
だが下院では、この権限修正法案はそれほど迅速な動きを見せておらず、先週は、公聴会が続けられた。
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