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“落ちる”のはOSだけじゃない──ネットワーク時代に増大する雷リスク

» 2005年07月08日 16時06分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「カミナリ様の付け入るスキが増している」――社会のIT化・ネットワーク化が進むにつれ、雷による異常電圧「雷サージ」の侵入経路が増え、被害は複雑で深刻になっている。対策は必須だが、100%安全と言い切れる対策はないのが現状だ。

 国土交通省が所轄する「雷害リスク低減コンソーシアム」がこのほど、「雷害リスク低減普及セミナー」を秋葉原クロスフィールドで開き、雷害の実態と対策を話し合った。

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 雷による被害は、減った分野と増えた分野がある。減った分野は、電源だけで作動する家電などだ。メーカーによる機器側の雷対策が進んだ上、電力会社の対策も進化し、落雷による停電の回数も減ってきた。

 被害が増えているのは、電話やファクス、ネットにつないだPCといったネットワーク機器だ。電源線と通信線につながっており、片方で対策をしていてももう片方からサージが入り込んで壊れてしまうことが多いという。IT化が進み、ネットにつながる機器が増えれば、被害の拡大も予想される。

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 PCなど精密なコンピュータは、雷サージに特に弱い。わずか20ミリ秒、30%の電圧変動が命取りになると言われており、ちょっとした雷でも故障したりデータが飛んでしまう危険性がある。企業や公的機関の基幹コンピュータなら、1台の故障がシステム全体に悪影響を及ぼすこともあり、対策は必須だ。

 「『雷で停電したから、宿題ができなかった』程度の被害で済んだ時代ではなくなっている。雷対策はリスクマネジメントの視点で考えるべき」――妹尾堅一郎東京大学特任教授は、雷も経営リスクと指摘する。

「対策に100%はない」

 雷の実態は分からないことが多く、“雷予報”も難しい。気象庁予報部の高瀬邦夫主任予報官によると、気象庁は雷を起こしやすい強い積乱雲の動きを追うことで、1時間後までの雷を予測している。しかし普通の雲も10分程度で積乱雲に変化するほか、積乱雲以外も雷を起こすといわれており、予測は困難だ。

 完璧な雷対策も存在しないのが実情だ。対策機器を上手に選べば、90%程度までの対策は可能というものの「『これを使えば被害を100%防げます』という雷害対策機器のセールスマンがいたら、疑ってかかったほうがいい」と横山茂・九州大学大学院総合理工学研究院教授は話す。

 雷は季節や地域によって差があり、それぞれの特性に合った対策が必要になる。また、弱い雷と強い雷の電流差は100倍もあり、中程度の雷にあわせた対策をしても強い雷には対応できない。どこまでの対策が必要か考えた上で機器を選ぶことが重要という。

 雷の侵入経路を管轄する省庁がそれぞれ異なり、包括的な対策基準作りも難しい。通信なら総務省、電源設備なら経済産業省、避雷針接地基準なら国土交通省の管轄だが「雷は省庁ごとに分けて侵入してくれない」(佐藤秀隆NTTファシリティーズ研究開発本部R&Dストラテジー部門部長)ため、省庁を横断した対策作りが必要となりそうだ。

 「『自分だけは大丈夫』と思わないこと」――他の災害対策と同様に、雷対策も普段からの心がけと準備が必要と、高瀬主任予報官は語った。

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