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MS、公取委に本格的に反論開始

» 2005年08月29日 22時20分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 Windowsの使用許諾契約をめぐり、米Microsoftが独占禁止法違反に問われた問題で8月29日、Microsoftに対する第6回審判が開かれた。Microsoftは初めて本格的に主張を展開し、問題視された特許非係争条項(NAP)は「OEMメーカーの訴訟を禁じるものではなく、公正な競争を阻害するものではない」などと公正取引委員会に反論した(関連特集)

100ページ超の反論

 争点となっているNAPは、WindowsをPCにインストールして販売しているOEMメーカーに対し、Windowsに使われている技術がメーカーの知的財産を侵害する恐れがあっても、メーカーは訴訟などを起こさない、とする条項だ。

 昨年7月、Windowsの使用許諾契約に含まれていたNAPが独占禁止法違反(不公正な取引方法)に当たるとして、公取委はMicrosoftに排除勧告を出した。同社が勧告を拒否したため審判が開かれ、審判官が同社の主張を聞き、排除命令を出すかどうかを決める。

 昨年10月の第1回以来、これまでの審判では同社が公取委に対し質問する形で論点を整理してきた。同社が公取委に本格的に反論するのは今回が初めてで、提出した準備書面などは100ページを超えた。

 同社の反論の骨子は(1)NAPはOEMメーカーの訴訟を禁じるものではなく、OEMメーカーが「直接契約」とNAPの受け入れを余儀なくされていたということはない、(2)NAPは市場における公正な競争を阻害するものではない──という点だ。

「直接契約を結んだのはOEM側のビジネス判断」

 Windowsの企業向け販売は、同社とメーカーなどが直接契約する「直接契約」(ダイレクトOEM)と、卸業者を通じて購入する「間接契約」(システムビルダ契約)がある。NAPが含まれるのは直接契約の場合のみだ。

 同社の主張によると、OEMメーカーは直接契約を結ぶ前なら訴訟を起こせる上、知的財産に関する懸念を同社と協議し、NAP条項を修正することも可能。実際にこれまでに修正もたびたび実施してきたという。協議しても懸念が解消されない場合は、NAPが含まれない間接契約を選べばよく、「間接契約は現実的かつ有効な、直接契約の代替手段」だとしている。

 だが同社はOS市場でシェア95%以上を占める「支配的事業者」である上、PC市場では価格競争が激化し、メーカーはコストの切り詰めに迫られているのが現状。このため、中間マージンが上乗せされる間接契約をメーカーが選ぶことは事実上難しく、知的財産への懸念があっても同社との直接契約を余儀なくされてきた──と公取委は見ている。

 これに対して同社は「実際に10%程度は間接契約。日本を代表する企業であるOEMメーカーが直接契約を選んだのは、企業として高度なビジネス判断をした結果のはずだ」と反論する。

「具体的な指摘を」

 公取委が、NAPが「パソコンAV技術取引市場」の公正な競争を妨げていると指摘している点については、WindowsのOEMビジネスに対する公取委の理解に問題があるとする。

 マイクロソフト法務・政策企画統括本部長の平野高志氏は「30ページほどあるOEM契約書の中にはマイクロソフトに不利な条項もある。OEMビジネスとライセンス関係の全体を考慮せず、NAPだけ取り出して論ずるのはおかしい」という。

 さらに同社が不満なのは「公取委がNAPによる市場への現実の悪影響を立証していない」という点だ。平野氏によると、NAPがパソコンAV技術取引市場の公正な競争を阻害したという具体的な事実についてただしたところ、公取委は「開発競争を損なう高度ながい然性」があった、答えたという。平野氏は「理由が抽象的。もっと具体的に立証してほしい」と話す。

 同社が具体的にどの特許を侵害しているかについても公取委は答えていないという。ただ、公取委が示唆しているのはWindows Media Video(VC-9)とMPEG-4(H.264/AVC)の問題だ。

 VC-9をめぐっては、日本のメーカーが多くの特許を保有するH.264/AVCと「同じアルゴリズムを使っているのでは」と指摘された。この問題は、MPEG技術のライセンス許諾を担当するMPEG LAがVC-9も扱うことで一応決着した。だが公取委は、NAPが同市場に悪影響を及ぼした例としてこの問題に関心を寄せているもようで、ソニー、松下電器産業、三菱電機に証言を求めると見られている。

 Microsoftは「MicrosoftもMPEG LAを通じてライセンス料を払っている。日本のOEMメーカーは自社のAV技術をMicrosoftを含む他社にライセンスしており、多額のロイヤリティ収入を得ている」としている。

 NAPがPC市場の公正な競争も阻害している、との指摘には「MicrosoftはそもそもPC市場のプレーヤーではない。NAPがPC製品の差別化を難しくしていることはなく、実際にさまざまなAV機能を搭載した製品が市販されている」と反論している。

NAPはPC業界のため

 CPU販売をめぐり排除勧告を受けたインテルは、「事実には同意できない」としながらも、早期決着を図って応諾した(関連記事参照)

 NAP自体は既に削除が決まっており、今年8月1日以降の直接契約にはNAPは含まれないため、既に過去の話と見ることも可能ではある。

 だがMicrosoftが勧告審決に持ち込んで早期の解決を目指さなかったのは、排除勧告が過去にさかのぼってNAPの無効化を求めているためだ。

 NAPが導入されたのは1993年。PC市場は拡大期にあり、NAPで訴訟を回避することで業界の混乱を防ぎ、Windowsを使ってビジネスを展開するメーカーらが広く安価に製品を販売できるようにする──のがねらいだったと、同社は説明する。当時はソフトウェア特許が認められていなかったため、クロスライセンスが難しかった事情もある。

 だが排除勧告を受け入れると遡及してNAPを無効にするよう求められるため、OEMメーカーは時効にかからない分については知的財産訴訟を起こせることになる。これは「特許をめぐる無益な訴訟」を誘発することになり、NAPは業界の混乱を防ぐためだとする同社としては、排除勧告は「受け入れようがない」という説明だ。

 同社からは「非係争条項は業界一般に見られる上、MicrosoftのNAPは範囲が極めて狭い」という不満も漏れる。ただ、NAPを導入した1993年当時の趣旨を、OS市場を事実上独占する現在の同社の主張としても妥当だと、公取委が判断する可能性は低いと見られる。両者の対決は続きそうだ。

 同社は審判の結果が出るまでに2年、最高裁まで争った場合はさらに3年かかると見ている。

 次回の審判は10月12日。

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