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「CD店のBGMをネットに」――Yahoo!の無料音楽配信

» 2005年08月31日 11時14分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ヤフーが8月22日に始めた「Yahoo!サウンドステーション」は、無料音楽配信とCDの売り上げという、一見対立する2つの要素を両立させようという試みだ。Jポップやロック、クラシックなど計10万曲を無料でストリーミング配信。ユーザーと音楽との接点を増やしてCDを買ってもらうきっかけにする。

Yahoo!サウンドステーション

 「シーンと静まりかえったCD店っておかしいでしょう」――同社メディア事業部プロデュース室の水野有平プロデューサーは、サウンドステーションをCD店のBGMになぞらえる。BGMを気に入り、店に入るまではまったく知らなかったCDを衝動買いする――そんなフローをネット上で実現したいという。

 若者の自由時間がネットに吸い取られ、ラジオやテレビで音楽と接する機会が減ったと水野プロデューサーは言う。「音に接しない人がCDを買うとは思えない」。無料で多様な音楽に触れられる場をネット上で提供し、音楽への興味を高めてもらう狙いだ。

 1000万ユニークユーザーが閲覧しているという音楽情報サイト「Yahoo!ミュージック」のコンテンツとしての役割も担う。「来てくれた人に、今まで知らなかった音楽に出会ってほしい」

 音楽配信サイトなどでは、曲の一部だけを試聴できることが多いが、サウンドステーションは曲全体の配信にこだわった。「初めて聴く音楽で、一部分だけ聴かされても買おうとは思わない。音楽は1曲丸ごと作品。絵を買うとき、『右半分だけしか見せられないけど買ってください』っていうのはおかしいでしょう?」

 とはいえ、ユーザーが無料音楽で満足し、CDを買わなくなっては本末転倒。32Kbpsという低ビットレートの配信に抑え、高音質で聴きたければCDを買ってもらうという作戦だ。一部楽曲では、プレーヤー画面にCDのジャケット画像と「このCDを購入」というラジオボタンを表示。クリックすれば「Yahoo!ショッピング」の販売ページに飛ぶ。

 目指すのは、楽曲データのダウンロード販売増よりもCDの販売増。「ダウンロード販売の市場はまだまだ小さい。売り上げで最もインパクトがあるのはCD」。音楽市場活性化には、まずはCDの売り上げ復活が不可欠と考える。

好みの番組を選ぶと表示される専用プレーヤー画面。30秒間の画像付き広告と5曲の音楽再生が繰り返される。早送りや巻き戻しはできない

 ポッドキャスティングなどの新技術も注視しているが、技術で先行するつもりはない。「技術だけなら無限にあるが、権利者の権利を守り、売り上げアップにつなげる仕組みができていない」

 自らも作曲家で、JASRAC正会員でもある水野プロデューサーは、「音楽産業を活性化したい」と繰り返す。Yahoo!ショッピングの売り上げアップや、Yahoo!ミュージックのページビュー増といった、企業としての目先の利益よりも、より多くの人に音楽に触れてもらい、音楽業界全体を盛り上げるのが目的という。そこには、ポータル王者の余裕と、強い影響力を持つサイトとしての社会的な立ち位置への意識も垣間見える。

「音楽との出会いの場を増やしたい」と水野プロデューサー

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