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ポッドキャストとラジオとネット TOKYO FMに聞く

» 2005年09月13日 12時55分 公開
[ITmedia]

 FMラジオ局が次々にポッドキャスティングに参入している。エフエム東京(TOKYO FM)は、いち早く参入を決めた局の1つ。「メディアの特性に合ったコンテンツを開発していきたい」――同社クロスメディア事業局の田村光広専任局長はそう語り、ネット時代のラジオ局の姿を模索する。

photo 「アウトプットの手段に合わせたコンテンツを作りたい」と田村専任局長

 「ポッドキャスティングは個人でもできるもの。ラジオ局がやらない手はない」――田村専任局長は、同社がポッドキャスティングに参入した背景をこう説明する。リスナーとの新たな接点を模索するラジオ局にとって、ポッドキャスティングは手軽に試せる新しいメディアだ。

 FMラジオのリスナーは減少傾向と言われている。その原因はいくつも考えられるが、主なリスナーだった10代から30代の可処分時間が、ネットやケータイに奪われたことも大きいだろうと田村専任局長は話す。2004年にはネット広告費がラジオを抜いたと報じられるなど、リスナー減少が収益面にも暗い影を落とし始め、ラジオ局の危機感は高まっている。そんな中で登場したポッドキャスティングは、初期投資が少なく、ラジオ局のノウハウがそのまま生かせる、音声コンテンツの新たな可能性だった。

 同社初のポッドキャスティングコンテンツは、本田技研工業のスポンサード番組「Honda SWEET MISSION」。地上波で公開している10分間番組の番外編で、エキサイトと組んで運営中の番組ブログにポッドキャスティングを組み入れた。ラジオを聴いたことがない人にも番組をアピールし、ホンダのブランドイメージを高める目的。セイン・カミュさん、パンツェッタ・ジローラモさん、フローラン・ダバディーさんの3人がパーソナリティーを務める。

photo Honda SWEET MISSIONのブログ

 当初はラジオと同じコンテンツを配信するつもりだったが“業界団体の壁”があって諦めざるを得なかったと、同社番組制作局広報担当の林理江さんは打ち明ける。ラジオ放送とネット配信で同じコンテンツを使う場合のルールに関する合意などがなかったため「うちだけでやるわけにはいかなかった」(林さん)という。

 加えて、本編をネット配信してしまっては、肝心のラジオ放送を聴く人が減ってしまうかもしれないという懸念もあったため、別番組を収録し、番外編として土曜日に配信することにした。「結果的にはこれで良かった」(林さん)

 コンテンツのダウンロード数は万単位で、当初予測の3倍だったという。「正直、ここまでダウンロードしてもらえると思っていなかった」(林さん)。放送と異なるコンテンツなら、既存の番組リスナーも聴きにきてくれる。ポッドキャスティングで初めて番組を聴いた人が、ラジオ番組も聴いてくれるという、正の循環も期待できる。

課題――配信コストと著作権

 同局のポッドキャスティング番組はもう1つある。全国FM放送協議会(JFN)が開設したWebサイト「Reco」のコンテンツとして始めた「なんだ礼央化RADIO!」だ。RAG FAIRの土屋礼央さんがパーソナリティを務める番組で、スポンサーなしで20〜30分と長い。スポンサー付きで10分程度の、トーク主体のHonda SWEET MISSIONとは異なる悩みがあるという。

photo なんだ礼央化RADIO!のサイト

 なんだ礼央化RADIO!の1週間の総ダウンロード数は2万程度。好調に映るが、この程度では足りないと田村専任局長は話す。スポンサーなしの番組だが、データ量が大きく、ダウンロード1回あたりのサーバコストが高くつくためだ。「ダウンロード型の場合、3〜4分の番組の方が効率がいいかもしれない」と、田村専任局長は頭を悩ませる。

 著作権の問題もある。ライブストリーミング番組でRAG FAIRの曲をかけようとすると、ラジオとは別にJASRACへの著作権料が発生する。「コンテンツごとに現在のJASRACの規定との整合性をとるには時間がかかる」と田村専任局長は語る。

 JASRACへの申請が通っても、原盤権者のネット利用許諾が必要で、ポッドキャスティングでの楽曲利用は難しい。「ポッドキャスティングがどのように進化するのか、原盤権者も含めて今は模様ながめの状態なのでは」(田村専任局長)

 ビジネス化も課題だ。スポットCMや、番組内での商品紹介による広告収入が期待できるものの、まだまだ未開拓の分野。まずは実ダウンロード数などデータを整備し、広告主にアピールする必要がありそうだ。

ネットとラジオ、コンテンツは異なる

 エフエム東京は、新技術に敏感なラジオ局だ。2001年にブロードバンド配信企業・TFMインタラクティブを設立し、音声や映像のネット配信を開始。2003年には地上デジタルラジオ実用化実験をスタート。auのFMケータイ開発時も陣頭に立った。

 「各メディアの特徴をうまく生かせるコンテンツを作りたい」と田村専任局長は話す。アナログラジオ、デジタルラジオ、ストリーミング、ポッドキャスティング――それぞれのアウトプットに合った音声コンテンツの形を模索したいという。

 ライブストリーミングなら、リスナーからの生の反響を生かしたコンテンツが作りやすい。隔週でライブストリーミング放送を行っているなんら礼央化RADIO!は、チャットのような感覚でリスナーからのメールが次々に送られてくるという。「ラジオ放送の比じゃないほどメールが来ます」(田村専任局長)

 ポッドキャスティング番組は、通勤通学の時に聴いてもらえるコンテンツを意識し、移動にフォーカスしたコンテンツ作りを工夫する。礼央化RADIO!のポッドキャスティング版は、JRの山手線に乗車した様子をレポートする「乗車男」というコーナーを盛り込んだ。

 ポッドキャスティングは、ラジオ復権のきっかけとなるだろうか――試行錯誤は続きそうだ。

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