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「萌えで世界を平和に」 オタク新雑誌「メカビ」(1/2 ページ)

» 2006年06月02日 15時44分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「男子は皆、オタクである」――6月2日に講談社が新創刊する雑誌「メカビ」の表紙の言葉だ。ピンクの表紙にメカと美少女のイラスト。一見アレゲな雑誌だが、中を開くと麻生太郎外務大臣や養老孟司さんへのインタビューなど堅い記事がずらり。その一方で、ギャルゲーや同人誌の熱いレビューも繰り広げられている。

 オタクを自称する同誌の編集者は、「オタク的精神には、世界平和につながる何かがある」と真顔で語り、オタク世界に人々をいざなう。その背景には「萌え」という寛容な文化がある、という。

photo 創刊号は全200ページで1500円(税込み)。不定期刊で「年2回くらいは出したい」という

 メカビは「メカと美少女」の略。同社初となるオタク編集者によるオタクのための雑誌で、同社の松下友一さん(26)と井上威朗(35)さんが「昼の仕事」の合間をぬって編集した。松下さんはギャルゲーオタクだが、昼間は自然科学系の新書・ブルーバックスの編集者。井上さんは漫画オタクだが、昼間は選書「メチエ」の編集者だ。

photo 井上さん(右)の昼間の職場

 2人は「オタク的心根」があると見たさまざまな人にインタビューや寄稿を依頼。1冊に詰め込んだ。その1人、麻生外相は漫画が大好きなことで有名で、「羽田空港で、オタクに人気の漫画『ローゼンメイデン』を読んでいた」とネット上でうわさになったほど。インタビューでは漫画について熱く語ってもらった。

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 「この時期にインタビューするなら、政界のこと聞かなきゃいけないし、言論人としては、彼が最先端に立つ表現規制の問題を批判しなくちゃならないはずだが、そんなことは全くしていない」(井上さん)。養老さんのインタビューは、高橋留美子さんの作品の魅力から、漫画と日本語表現、ゲーム規制などが語られている。

 自他ともに認めるコアなオタクも登場する。経済学者の森永卓郎さんは、萌えやオタクの定義に正面から挑む「オタク批判に答える」を寄稿。「電波男」筆者の本田透さんも、オタクと萌えを熱く語る記事を提供している。

 このほか、「人は見た目が9割」著者の竹内一郎さんの寄稿、作家・皆川ゆかさんの萌え論、ミュージシャンのGacktさんのインタビュー、コミケのフォトリポートなど、記事のカバー範囲は幅広く、一見バラバラな内容にも見える。

 しかしそれこそが現代のオタク界を示していると2人は言う。男子は誰しもがオタクであり、オタク界はどんな趣味――萌え属性――も拒絶しない、と。

妹萌えも姉萌えも、萌えは萌え

 従来のオタク界は教養主義的で、その分野に関する知識・教養があるほど尊敬され、知識がないと軽蔑された。しかしそれは「排除の論理。もう古い」(井上さん)。「オタクはこうでないといけない」とかっちりと定義し、それ以外をオタクと認めない態度は過去のものだという。

photo 「メカと美少女が嫌いな男子はいない」と松下さん

 「養老先生も普段は知識人で学者。ぼくも24時間オタクではなく、昼間は普通のサラリーマン」(松下さん)。フルタイムオタクでもパートタイムオタクでもオタクはオタク。そこに優劣はないというのが20代の松下さんの主張であり、オタク新世代――萌え世代――の考え方だという。

 「本田透さんが『萌えは多神教』と発言してくれたおかげで楽になれた」(井上さん)。オタクは他者の信仰も認め合える多神教。妹萌えも姉萌えも、メイドさん萌えもツンデレ萌えも、それぞれ対立することはない。「妹萌えの人に対して『妹はおかしい、姉萌えだろ、という議論は起きない。『妹もいいよね、姉もいいよね、メイドさんもいいよね』となる」(松下さん)

 萌えは属性や作品別に共存でき、オタク/非オタクという二元論にもなりにくという。例えば松下さんは「To Heart2」が大好きだが、初代「ToHeart」はやったことがない、という自称ギャルゲーヲタ、だ。「ぼくのような人間は、オタク/非オタクの二元論の世界では、オタクとして認められなかった」

ネットがオタク界を変えた

 オタクが二元論的な世界から多神教に移る上で重要な役割を果たしたのがインターネットだったと、松下さんは考えている。

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