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ケータイ音楽はロボット検索の“死角”

» 2007年08月01日 11時23分 公開
[佐藤崇,ITmedia]

 携帯電話向けサイトは、キャリア公式以外の「勝手サイト」が盛り上がっています。その反面、公式サイトは今後、成長が厳しいと言われていますが、公式でも伸びている分野があります。音楽コンテンツのダウンロードです。

 携帯の音楽検索には、独特の難しさがあります。権利を持つ会社が、外部の検索会社にデータベースをクロールさせることを好まない傾向にあることや、楽曲などのデータベースの更新ひんぱんにあること、対応端末によってダウンロードできるコンテンツに幅がありすぎることなどです。

 ですから、“使える”検索を構築するには、PC向け検索で一般的な、ロボットによるクローリングだけでなく、データベースを持つ企業と綿密に連携を取り、ひんぱんに検索データベースを更新していく必要があります。

音楽データベースは検索しにくい

 音楽コンテンツのデータベースにはさまざまな情報があります。これまで当社も、着うたサイトや着信メロディのサービスを展開してきましたが、ページ上に記載しない情報が多数ありました。

 例えばアーティスト名は、ひらがなやカタカナ表記を省くこともあります。和音数や再生チップ、タイアップ情報、対応端末、発売日、ダウンロードランキング――コンテンツに付随する情報はかなりの数に及びますが、そのすべてをページに記載するわけではありません。ですから、これをロボットによるクローリングだけでカバーするのには限界があります。

 また、着うたは「先行配信」「期間限定配信」といった形で配信するケースもよくあります。配信ページのURLがたびたび変更されたり、配信が突如として始まり終わってしまったりすることもあります。

 当社も6月下旬から、新たに音楽検索の分野に挑戦することにしました。コンテンツプロバイダーのデータベースと連携しているため、検索結果がひんぱんに変わります。サービス当初は28万曲を検索対象としていましたが、対象楽曲数は65万曲を超えました。

 例えばドラマ「花ざかりの君たちへ」の主題歌は、ある着うたサイトなどで先行限定配信されていましたが、当社の検索サービスfroute.jpでは、そのままダウンロードできるようにしました。

 携帯検索は、欲しい情報を機能的に探すというよりは、何かしながら検索したり、空いた時間にたまたま使われるといった形が多いようです。また、ミュージシャンやテレビタレントなど、エンターテイメンント関連のキーワードが多く検索される傾向にあります。

 今後、音楽検索がより便利になれば、ドラマの内容や出演者情報を探しながら、ついでに音楽コンテンツをダウンロードする――といった使われ方が拡大していくかもしれません。

音楽検索の歴史

 音楽検索の歴史は、着信メロディの時代にさかのぼります。代表的なのは、2001年ごろスタートしたフォーサイド・ドット・コムの横断検索で、2002年ごろには、Yahoo!JAPANやInfoseek、gooなど主力ポータルサイトのモバイル版に軒並み導入されています。

 その後、着信メロディの無料化が進んだほか、1つのサイトだけでも十分に楽しめるほど楽曲ラインアップが充実したことなどから、横断検索ニーズが少しずつ低下していくことになりました。

 転機がやってきたのは、音楽コンテンツが月額課金制から従量サービス中心へと移り始めた時点です。そのタイミングは、着うたフルのサービス開始時期・2004年末ごろだったのではないかと思います。

 このころになると音楽コンテンツは、着信メロディ・着うた・着うたフル・ビデオクリップと幅広いジャンルに及ぶようになりました。またモバイルECも一般に受け入れられるようになってきたため、CD/DVDの販売も始まりました。着うたフルはなくても、着うたなら配信されている――という楽曲もあります。同じ楽曲でも複数のサイトからそれぞれ別の形式で配信していたりして、楽曲を特定のサイトだけで探し出すのが難しくなります。

 こうした流れに先手を打ったのは、自ら音楽コンテンツをキラーと掲げるauでした。auは2006年1月、「LISMO」というブランドを掲げ、音楽検索・音楽ポータル分野に参入します(関連記事参照)。iモードにも2006年5月に「ミュージックiガイド」というメニューが登場しました(関連記事参照)

公式メニューにも音楽検索

 2006年になって、通信キャリアの公式メニューに検索窓が設置されるようになりました。しかし、Googleのページ検索結果から、音楽コンテンツ最大手のレーベルモバイルのコンテンツの内部を検索することはできません。レーベルモバイルは、すべての楽曲を検索からアクセスできるようにするタイミングがまだ来ていないと判断しているのでは――と勝手に推測しています。

 一方でauは、Googleの検索結果に、自社で展開する専門的な音楽検索の結果へのリンクを掲載しています。iモードも最近になって、アーティスト名から楽曲のダウンロードサイトを検索できるようになりました。ソフトバンクモバイルの「Yahoo!ケータイ」でもアーティスト名からの楽曲検索が可能。携帯音楽検索まわりの環境は、少しずつ整備されてきているようです。

今後の専門検索のあり方とは

 音楽検索に関しては、これまで一部の勝手サイトで、違法にアップロードされたコンテンツがヒットしてしまうという問題もりましたが、違法音楽コンテンツ廃絶キャンペーンなどの効果もあり、最近はかなり淘汰されてきているようです。

 もちろん、投稿された違法データなどノイズの多いコンテンツを利用者に無理やり検索させるよりは、欲しい楽曲を求めるクオリティーで、きちんとした形で提供されるスキームが整備されてくことが自然でしょう。音楽コンテンツが携帯電話を通じて多くの人に行き渡ることで少しでも人々が音楽に接する時間が増えれば、結果として音楽コンテンツ市場が拡大していくと期待しています。

 音楽以外にも、携帯ゲーム、携帯コミックなど、専門検索が必要とされているコンテンツはいろいろあります。こうした分野に関しても、今後多くのプレイヤーが参画し、よりよいサービスを提供していく競争が始まるのではないでしょうか。

佐藤崇

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 モバイルポータルサイト「F★ROUTE」(エフルート)運営するエフルート社長。

 1975年生まれ。慶応義塾大学大学院社会学研究科修士課程卒業。2000年、フォンドットコムジャパン(現オープンウェーブ)に入社。携帯電話向けコンテンツディベロッパーマーケティングに従事した。2001年にオープンサイト運営者として独立、後に事業売却。2003年、ビットレイティングス株式会社(現:エフルート株式会社)を設立。F★ROUTEを中心にモバイルサイトのアグリゲーター業務を行う。

 著書に「ケータイ・ビジネス 成功の新常識」がある。


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