原宿駅にほど近い、コンクリート打ちっ放しのイベントスペース。丁寧に設置されたオーディオシステムから、大音響のハードロックが飛び出した。「バリバリロック来た! 普通のオーディオイベントではありえないですよ、こんな音楽」――主催者はうれしそうに言う。
オーディオといえば、クラシックやジャズを聴いてうんちくを語るもの。マニア以外は寄せ付けない――そんなイメージを払拭し、iPodや携帯電話でしか音楽を聴かない若い人にも「ちゃんとした音」を体験してほしい。横浜のオーディオショップ「ザ・ステレオ屋」店長の黒江昌之さんが中心となり、オーディオ販売店やメーカーなど業界の若手で作り上げた「マニア禁止」の無料イベント「MY-MUSICSTYLE」第2回が9月1日、原宿「EX'REALM」で開かれた。
イベントに集まったのは、ふだんミニコンポやiPodで音楽を聴く、オーディオマニアではない若者たち。CDやiPodなどでお気に入りの楽曲を持参し、「ロック用」「ポップス用」などジャンルに応じて専門家が構築した7種類のオーディオシステムで再生した。ハードロックからテクノ、ポップス、アニメソング――“オーディオイベントらしからぬ”曲が会場中に響く。クラシックやジャズはほとんどない。
「圧縮で間引かれていた部分がだいぶ再現されてた気がする」と話すのは、HUMAXのHDDプレーヤーに保存したポップスを持ち込んだ26歳男性。「音が全然違いました」――米国のロックバンドAt The Drive-InのCDと、東芝「gigabeat」に保存した邦楽ロックthe pillowsを聴き終えた高校3年生2人組は興奮した様子だ。
「iPodや音楽再生機能付き携帯電話の普及で、音楽は身近で手軽になった。それはいいことだが、音が犠牲になっている」と黒江さんは言う。iPodや携帯電話の音は圧縮され、元CDよりも音質が低下している。ぎりぎりのスケジュールで大量生産される楽曲メディアには、録音の質が低いものもある。
そんな「ジャンクな音」を聴いている若い世代に、ちゃんとした音を聴き、その良さを感じてもらいたい。マニアや中高年のものと思われがちなオーディオの世界を、普通の若い人にも知ってもらい、業界を若返らせたい――このイベントは黒江さんが、業界に数少ないという若手をかき集め、そんな思いで立ち上げた。
オーディオ業界に飛び込んだ7年前、愕然としたという。「おじさんばかりで、若い人が全然いない」。機材も中高年が好むクラシックやジャズ向け中心で、ロックやポップスに特化したものは見当たらない。わずかにいる若いファンも、マニアックにスペックを語るばかり。「オタクっぽくてじめじめした趣味になってる」
オーディオをもっと普通の趣味に――好きな音楽を楽しむための、磨きがいのある道具として、例えば女の子を口説く時に「いいオーディオがあるから、音楽聴きに来なよ。うちで聴くとヤバいよ」と言えるような、若者が当たり前に語れるカジュアルなものにしていきたいという。
会場に設置した7種類のオーディオシステムは、「バラコン」「単品コンポ」と呼ばれる、スピーカーやアンプなど、単独の機能を持つコンポーネントを組み合わせて構成した。「何十万円も出してフルセットを買わなくても、スピーカーを変えるだけでも音が変わることを知ってほしい」
誰もが音の違いが分かるわけではない。「音は確かに違うんだけど、音質の違いなのか音量の違いなのかよく分からない」と、iPodに録音したLily Chou-Chou「回復する傷」を、イベントのオーディオで聴いた23歳の女性は言う。
「音量は小さくても、いいオーディオならいい音になる。まずは音を聴いて興味を持ってもらい、そういった知識を学ぶきっかけにしてもらえれば」
仕切りのない小さな会場に7種類のオーディオシステムを設置したため、再生は音が混じらないよう1曲ずつ。整理番号をもらい、他人が持ち込んだ曲を聴きながら、自分の音楽が再生される順番を待つ。
理想を言えば、もっと広い場所に防音ブースを持ち込み、各オーディオから同時に再生できるような環境でできればいい。1日きりだったイベントだが、2日とか3日間やってほしいという要望もある。だがオーディオメーカーからの支援してもらった資金は、1日の小さなイベントでギリギリ。人手も足りない。
まずは小さく始めて、大きく広げていければいいと思う。4月に銀座で開いた第1回は150人が参加。「たくさんの若い人に来てほしい」と原宿で開いた今回は、250人以上が参加した。次回はまだ決まっていないが、またどこかでできればいいと思う。「まだ始まったばかりだから、少しずつ立ち上げていければ」
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