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「ダウンロード違法」の動き、反対の声を届けるには津田大介さんに聞く(後編)(2/4 ページ)

» 2007年10月12日 11時00分 公開
[岡田有花, 宮本真希,ITmedia]

 だから、音楽業界と出版業界が「うちも保護してもらう代わりに、向こうも保護してもらおう」的な感じで、あのときの著作権法改正に大量の「賛成コメント」が集まった。その結果、実際にパブコメも賛成多数になり、改正法案もすんなり通ってしまいました。

 たぶん今回も権利者側はパブコメの動員をやってくるんじゃないですか。半ば「業務」として命令されたら、そりゃパブコメも書きますよ。でも全体の数でいえば、権利者側の会社に勤めている人よりもネットユーザーのほうが圧倒的に多いわけです。

 輸入権の時は6万近くの反対署名が集まっていたにも関わらず、パブコメでは権利者の動員に負けてしまった。結局パブコメって面倒くさいから「他の誰かが出すだろう」とか思って出さない人が多いんでしょうね。

 でも、この段階でユーザーができることって限られているわけです。その限られた選択肢の中で、きちんとした反対の意見を持っている人はほんの数行でもいいから、何で反対するのかという理由を考えてパブコメを出して欲しいなと思います。

(※)YouTubeは「一時的視聴」

―― 今回の著作権法に関する議論にからみ「ダウンロード違法」の方向で法改正されればYouTube上の違法動画視聴もできなくなるという誤解が広がりました。これを受け、文化庁の川瀬真・著作物流通推進室長は「議論の対象はあくまでダウンロードサービスとし、ストリーミング配信サービスはそもそも検討の対象外」と説明しました。ただネット上では「YouTubeもファイルをダウンロードしている」といった意見も出ています。

 川瀬さんは、ぼくの質問に答える形で「YouTubeはストリーミングだから、見るのはOK」と話していました。これに対して「YouTubeはflvファイルをキャッシュとして『ダウンロード』するんだ」というツッコミがネット上では相次いでましたが、著作権法……というか著作権業界における「ダウンロード」の定義はまたちょっと違う話なんですよね。

 ストリーミングも、技術的にはデータを「ダウンロード」しているわけですが、1回見終わってプレーヤーやブラウザーを閉じたら、ネットに接続していない状況ではローカルのHDDから呼び出して再生することはできないわけです。つまり、データは原則一時的にしかHDDに保存しないことになります。

 それに対してダウンロードは、HDDに保存して、後から何度も見られるようにすること。これは著作権法上の「複製」に当たるという解釈です。JASRACのネット上の音楽利用に関する使用料規定が分かりやすいんですが、JASRACはHDDに逐次再生できる形で保存できる形式を「ダウンロード」にして、ネットにつながった状態で一次的にコンテンツを再生させることを「ストリーミング」という形式で区別して両者の使用料を明確に分けています。

 YouTubeに関しては、ローカルのHDDにキャッシュとしてダウンロードしているわけですが、1回見てブラウザを閉じてしまえば、キャッシュとしてデータが残っていても、「見た目上」はHDDに保存されているわけではない。だからストリーミング扱いになり、著作権法上は「複製に当たらない」という解釈になると。川瀬さんの発言は決してネットに対する知識がないわけでなく、そうした状況を踏まえてのことだと思います。

 つまり、YouTubeに上がった違法動画を「情を知って」いくら見たとしても、そのままブラウザを閉じる分には大丈夫。そもそも複製ではないから、という解釈です。逆に言えば、ダウンロード用ツールをインストールするなどして明確な意思をもって違法だとわかっている動画をHDDに保存する場合は複製行為に当たる――ということになります。

 ちなみに、ブラウザキャッシュについては、文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会で議論されており、「キャッシュ(一時的固定)は複製に当たらない」と解釈する方向で検討が進んでいるようです。


補償金制度「維持」のなぜ

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―― 小委員会では、MDやCD-Rなどデジタルメディアの販売価格に上乗せして徴収される「私的録音録画補償金」の問題も話し合われ、課金対象をiPodやPCなどにも広げるべきか議論されました。整理案の草稿には「時代の変化に合わせて見直しを行う」などと書かれ、課金対象の拡大については今回は見送られたもようです。ただ、小委員会では当初「補償金制度の廃止を含めた抜本的な見直しも検討する」とされていたと思うのですが。

 それはもう仕方ないんじゃないですか。委員には権利者側の人が多かったから「廃止しましょう」と言っても彼らは強硬に反対するに決まってます。消費者寄りの人はぼくと、主婦連合会事務局長、あとは野原佐和子さん(ITコンサル企業社長)ぐらい。録音録画機器メーカーは「補償金はないほうがいい」と言ってましたけど、メーカーと消費者も100%利害が一致するわけじゃないんですよね。

 学者の方も、これまでの経緯とか法的な裏付け、諸外国の状況を見た上で「補償金に意味があるのでは」という意見の人が多かった。ぼく自身も補償金は微妙なものだと思うんです。たかだか年間数十億円レベルの話ですし、反対する側もそこまで意固地になって反対する必要があるのかと。

 椎名和夫さん(日本芸能実演家団体協議会常任理事)もよく言っているのですが、補償金制度があることによって、動画や音楽にかけるDRMが過剰にきつくならず、テレビ番組や楽曲をある程度自由にコピーして楽しめるという自由がある。それが保障されるなら、補償金のようなものにも意味はあるのかな、と思ってます。

 そういう意識の下、「DRMが強化されるか、安価な補償金を支払う代わりに自由に私的複製できる状況を取るかの2択なら、補償金を支払う方を選ぶ」という話を「落としどころ」の提案の1つとして、委員会の席上でしたわけです。

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