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世界は日本発コンテンツをどう楽しんでいるのかORF2007 Report

» 2007年11月23日 04時08分 公開
[ITmedia]

 「世界は日本発コンテンツをどう楽しんでいるのか」──こんなテーマのセッションが11月22日、「慶応義塾大学SFC Open Research Forum 2007」(六本木アカデミーヒルズ、23日まで)で開かれた。

 手がかりにしたのは、10月にオープンした電子コミック配信サイト「マンガノベル」。スキャンレーション、つまりユーザーによる各言語への翻訳を自由としたのが特徴(映像の場合はファンサブと呼ばれる)で、プレス発表も海外向けに実施。現在までに178カ国・地域からアクセスがあったという。

 同サイトと同大総合政策学部の国領二郎教授による次世代メディア研究会が協力し、海外からのアクセスデータを使った共同研究を実施。アクセスの絶対数は米国、日本が多かったが、各国のインターネット人口で見てみると、フィリピン、シンガポール、マレーシア、香港などで訪問者割合が高い──という結果も出た。

 セッションには、東芝でPS2用チップの設計などに関わった経歴も持つ国松敦・マンガノベルエグゼクティブマネージャー、同人誌販売店を運営する虎の穴の吉田博高社長、経産省出身の境真良・早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員准教授(コンテンツ産業論)、慶応大大学院政策・メディア研究科の射場本健彦氏が参加。日本コンテンツの受容のされ方や、「萌え」を介した海外発信の可能性などを議論した。

photo 左から国松さん、吉田さん、境さん、射場本さん

オタクのいる街

 さまざまな国を「イベントにかこつけて」訪れたという吉田さんによると、やはり日本製アニメや漫画はアジアで人気が高い。

 マンガノベルへのアクセス数は韓国などが意外に少ない印象だが、境さんによると、1980年代に日本発アニメ・漫画文化が一度アジアを席巻していて、自国内にこうしたコンテンツを作れる人材が育ち、国産のコンテンツを見るようになるためという。ただ、国松さんによると、台湾はサイトへのアクセスも多く、スキャンレーションへの協力も熱心で、同サイトに作品を掲載したいという作家もいる「熱い」ところだという。

 吉田さんが「オタクの人は都心に多いんじゃないか。大都市で、引きこもりやすい街の」という“仮説”を述べると、堺さんは「大都市なのはその通りとして、ばりばり発展している街というよりは、発展し切っちゃって落ち着いちゃって、時間もできて金もあって、さあなにしようかというところ」と応じた。

萌えの輸出

 「萌え」は輸出可能だろうか。射場本さんが「萌え」を主張する海外の愛好家をヒアリング調査したところ、「特定の作品名を挙げるよりも、『萌えるんだ』という感情を前面に押し出してくるようだった」という。そこで「作品の輸出ではなくて、感情や文化の輸出なのでは」と問題提起した。

 境さんは「『萌え』というのは僕もどうハンドルしていいのか分からない感情」とした上で、「ストーリーなどとは違うというのは分かる。おそらく海外の人たちは『要素』に萌えるというのはあまりないのではないか。ただ、1つの作品を『萌える』という方向で消費することは可能だろうし、ストーリーで味わうことも可能だろうし、マーケティング的には商品性はいくつもあっていいが、消費する側のほうの多様性ではないかとも思う」とした。

 萌え的コンテンツの流通プラットフォームとしてのコミケ=同人誌即売会のようなリアルイベントを日本主導で海外で開催できれば、日本のコンテンツ産業にとってはプラスになるかもしれない。だが境さんは「いいか悪いかは別として、世界で一番表現の自由がある国は日本。エロからグロから何でもありなのは日本だけ。この状況を海外に作るのは政治的に難しい。せっかく日本にあるのだから、『来いよ』と話をしたほうがスムーズだと思う」と述べた。

海賊版退治の黄金律

 海外で日本製コンテンツの海賊版が大量に流通していることが問題になっているが、これを逆に「海賊版が人気の国は、日本のコンテンツを受け入れる素地がある」と見ることもできる。ヒアリングでも「海賊版が欲しいのではなく、作品が欲しい」という答えがあり、正規版をうまく展開できればチャンスにつながるとも言える。

 よく言及されるのが台湾のケース。境さんによると、1992年に台湾の海賊版業者が、日本の大手出版社に対し漫画出版のライセンス契約を求めてきた。「海賊版業者同士の競争が激しくなってきた。勝つためには1日も早く原版が欲しい。お金を払うから原版をくれと」

 出版社側は「海賊版業者にライセンスとは」と迷う部分もあったが、現地に自前の出版社を作るのは大変でもあり、「毒をもって毒を制す」とライセンス契約を結んだところ、2年で市場の正常化に成功。これがひな形となり、各国で同様の正規版化が進められた。

 「これは黄金律。早く、きれいなものを、いい価格で出せれば、必ず海賊版に勝てる」(境さん)

 デジタルコンテンツでは、本などのアナログメディアと異なり、モノという価値に対してお金を払ってもらうやり方が通用しない厄介なものだが「早く、きれいなものを、いい価格で」を貫けばデジタルでも海賊版に勝てる、と堺さんは見る。

言語を超える

 コンテンツの海外発信ではローカライズが問題になるが、実は英語でコンテンツを消費できる層が各国・地域に一定数いるのではないかという見方もある。

 「コンテンツの強さは言語を超える部分がある」という境さんは、タイで目撃した、子どもが「ドラゴンクエスト」を日本語のまま遊んでいた光景を例に挙げて「現地語に無理矢理直さなくても市場になりうるかもしれない」と考える。日本製コンテンツを楽しむために日本語を勉強する、という流れは実際にあり、英語のユニバーサル化に対し、日本語のユニバーサル化という文脈も「難しいが」可能性はあるかもしれない。

 国松さんによると、同じ作品のスキャンレーションでも、翻訳者が違えば英語の表現も違う。「あなた誰?」が普通に「Who are you ?」の場合もあれば、もっと強めて「Who the hell you ?」と訳している例などを挙げ、「文化的な学習にも使えるのでは」とした。

ライト化するコミケ

 「萌えは大変ですよね」という吉田さん。「うちの店(とらのあな)でも1分の1(等身大)ドールというのがあって、重さ35キロぐらいあったんですね。運ぶと腰が痛くなるようなものですが、購入した人に『郵送にしますか』と聞いたら『いえ、持ち帰ります』と。かなり勇者が多いですね」

 コミケの変化を感じることもある。「80年代、キャプテン翼とかのころは、『この本いいですね』と、作家さんと話をして交流しながら買っていた。最近は全然交流しないで、自販機みたいな感じで、とりあえず買いに来ているという感じで。コミケのルールがあって、変なところに並んでいるとしかられたりするんですが、そういうのを分からないまま参加している人が増えた。ユーザーがライト化しているというか、それはすごく思う。モノだけでくっついている」。

 30代になってコミケへの参加を再開したという堺さんも、80年代と比べて「ライト化というのがぴったりというか、密度が違う気がする」と応えた。

 吉田さんは、最近のオタクは「かっこよくなった」と話す。「『僕は普通人だよ』と、知識がついたというか、バンダナはやばいんじゃないの、みたいな」

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