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「初音ミク作品」契約をめぐりドワンゴ・クリプトンが説明

» 2007年12月21日 12時25分 公開
[ITmedia]

 クリプトン・フューチャー・メディア製楽曲制作ソフト「初音ミク」で作成された楽曲の着うた配信に絡む契約について、クリプトンとドワンゴ・ミュージックパブリッシングが12月21日、それぞれのWebサイト上で説明した。

 初音ミク楽曲を使用した作品のドワンゴからの着うた配信について、作者との契約がないまま行われたなどという内容の「2ちゃんねる」の書き込みがネット上で話題になっており、その経緯について両社が説明している。

 クリプトンの伊藤博之社長は21日早朝に投稿したブログ記事で「着うた配信については、ドワンゴが作者に直接連絡を取って許諾を得、当社に独占配信の許諾を迫ってきた。当社は独占配信は好ましくないと考えて交渉は平行線をたどった。その後ライセンス業務で実績のある仲介業者を間に立てたが、それによって契約が煩雑になり、作者との契約が延び延びになった。そうしているうちにドワンゴは、口頭ベースの許諾で配信を開始した」などと説明した。

 伊藤社長は「作者のみなさまに大変な不安と混乱を与えてしまい大変申し訳ございませんでした」と謝罪。「体勢を改め、作者に速やかに連絡を取り契約を済ませる」という。また「当社が行う契約は着うた配信に限定したもので、JASRAC(日本音楽著作権協会)などへの登録はしない。契約した楽曲がネットで自由に聞けなくなるなどの不都合は起らないので安心してほしい」としている。

 一方、ドワンゴ・ミュージックは「今年9月、クリプトンの担当者に着うた配信の了解をもらったが、その際に独占の話はしていない。権利処理については、当初はドワンゴと作者が直接行うことで合意していたが、その後クリプトンが代行会社を通じて行うよう指定したため、ドワンゴから代行会社に、作者の連絡先などを通知した。代行会社が作者と契約した後、ドワンゴ・ミュージックが代行会社とライセンス契約した上で配信することで了解を得ていた」という。

 その後、ドワンゴ側と代行会社は配信条件の詳細で合意。その際、ドワンゴ側は直ちに配信を始めることで了承を得た、という。このため配信を始めたが、「作者と代行会社の契約書が締結されていないことが、作者からのクレームで発覚」したという。「代行会社には作者と契約書を結ぶよう強く申し入れているが返答がなく、契約書が結ばれないまま今日に至っている」と説明する。

 つまりドワンゴ側の主張は、ドワンゴは代行会社から配信許諾を受けたライセンシー企業であり、作者との契約は代行会社と作者間の問題──というもの。ドワンゴは「クリプトン側で原盤権を管理すると決めた以上、当社と作者の納得のいく説明を早急にしてほしい」としている。

 これを受け、クリプトンの伊藤社長は21日昼、ブログに新記事を投稿。「事務手続きが円滑に行われなかったことは大変申し訳なく思っており、本日中に作者に連絡し、速やかに契約手続する」としている。

 またドワンゴに対しては「口頭の承諾で受けて『契約は後で』という『業界のルール』が、一般の方も多いクリエイターの意識とはズレがあるということを認識してもらい、今後は当社側で書面での確約が取れてから配信に移すということを守っていもらいたい」としている。

「管理=JASRAC登録」?

 権利のJASRACへの信託についてドワンゴ・ミュージックは「ドワンゴの音楽出版社で出版権を管理したいと権利代行会社に申し入れていたが、権利代行会社は『原盤権・出版権双方を管理する予定』と返答。ドワンゴがクリプトンに改めて『出版権も管理したい』と申し入れると、クリプトンの担当者から口頭で了解があり、権利代行会社からも『出版権管理を任せる』との返答があった。当社がJASRAC登録することをクリプトンが知らなかったことはありえない。当初はクリプトンサイドに、JASRAC信託を行う意向があった」とする。

 これについて伊藤社長は「全くの誤解」と反論。「当社がJASRAC登録を行うということはあり得ないし、権力に迎合する姿勢は当社のポリシーに合わない」とした上で、「管理」という言葉の解釈に問題があったという。

 「ドワンゴ・ミュージックの責任者と昨日電話した際、『業界で管理と言えばJASRAC登録を指すのは当たり前』という見解を示していた。仲介業者の担当者とも再度確認したが、やはり『楽曲の管理はするとは言ったが、JASRAC登録するとは言っていない』とのこと。これは大変な誤解で、ドワンゴがあいまいなやり取りを一方的に自己解釈したことを、公式のブログでコメントするのはいかがなものか思う」

「原盤権」「出版権」とは

 原盤権は音源(楽曲が演奏されたもの)のマスターの権利。着うたは曲をそのまま使うため、配信の際には原盤権者から利用の許諾を受ける必要がある(関連記事参照)。

 出版権は「音楽出版権」で、楽曲(歌詞と曲)についての著作権のこと。通常はアーティストと音楽出版社が契約を結び、アーティストは楽曲の著作権を音楽出版社に譲渡。音楽出版社は権利をJASRACなどに信託譲渡し、JASRACは使われた分について著作権使用料を音楽出版社に支払い、音楽出版社は印税としてアーティストに分配するのが一般的な仕組み。


「両社ともニコニコしたい」

 伊藤社長は「今回の問題は“業界”という暗黙のルールの上でやりとりされたためにお互いの認識がかみ合わなかった」とし、ネットユーザーや同社の顧客に対して「見苦しいやりとりを大変に申し訳なく思っている」と謝罪する。

 その上で「各社協議の上、しっかりとしたビジネスを構築できるよう努力していきたいと思っている」とコメント。「ネガティブな話ばかりが先行しているが、両社はともにCGM(Consumer Generated Media)を志向する会社として昨日も、ポジティブな意見交換・議論をした。両社ともがニコニコできるような仕組みが築けたらと願っている」としている。

JASRAC登録名は変更に

画像 JASRACのデータベース「J-WID」の検索結果

 また、JASRACに「初音ミク」名で登録されていた「みくみくにしてあげる♪ 【してやんよ】」のアーティスト名が12月21日、「ika」に変わった。アーティスト名の表記については、(「初音ミク」という表記を含める場合は)「作家名+featuring初音ミク」と表記するようクリプトンがドワンゴ側に依頼しており、ドワンゴ・ミュージックは「手違いで」初音ミクと登録してしまったと謝罪していた。

 「みくみく」のJASRAC信託についてドワンゴ・ミュージックは「ニコニコ動画上の投稿にはなんら制約はないはないが、創作活動上でのユーザーの懸念は理解した」とコメント。「この件について責任を負うのは当社で、作者のika_mo氏には大変なご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げる」としている。

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