「“青少年ネット規制法”は成立後が大変だろう。民間による規制に実効性がなければ、国の関与が必要となりかねない」――全国高等学校PTA連合会の高橋正夫会長が6月4日、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構が開いたシンポジウムに登壇し、いわゆる「青少年ネット規制法案」について意見を述べた。
青少年ネット規制法案は、青少年を有害サイトから守ることを目的とし、18歳未満が利用する携帯電話やPCへのフィルタリングソフト導入などを盛り込んだ法案。
当初の与党案は、有害サイトの基準作りに国が深く関わる内容で、ネット業界などから強い批判を浴びた。その後の与野党協議で、有害サイトの基準策定は民間で行い、国が関与しないことで合意。規制色も弱まった上で、今国会での成立を目指している(青少年ネット規制法案、国の関与なしで与野党合意)。
「ちょっと待って下さい、何で国がそんなことを強硬にできるんだ」――高橋会長は昨年12月に初めてフィルタリングに関する動きを知り、強い疑問を覚えたという。
「全国240万人の高校生のうち、98〜99%が携帯電話を持っている。一斉にフィルタがかかり、親が店に行かないと外せなくなるようなことをされたら、大変なことになる」
ただ、フィルタリングに全面的に反対しているわけではなく、「フィルタリングをかけるのなら、ある程度きつめになることはやむを得ない」とも話す。
「子どもたちに『今携帯電話がなくなったら困りますか?』とアンケートを取ったが、半数が『困らない』と答えていた。子どもは独立した生活力を持っていないから、親の権限できつめのフィルタリングがかかってもやむを得ないだろう」
問題は(1)当初の与党案では、国が情報規制に関与していたこと、(2)現状の携帯電話のフィルタリングでは、18歳未満――小学校1年生も高校3年生も――同じレベルで情報を遮断されること、(3)周知がほとんどされていないこと――だと指摘する。
(1)や(2)については、フィルタリングが不要と考える家庭では、保護者がフィルターを外すことができるようにすべきとし、「国が一切タッチしていただきたくない」と述べる。
(3)については特に、地方で問題が大きいと話す。「この問題について話されているのはおそらく東京だけで、地方では新聞にもほとんど出ていない。わたしは大分県に住んでいるが、大分の新聞では1度も記事になっていないと思う。周知期間をきっちり置いていただかないと、本当に混乱する」
法案は今国会で成立する見通しだが、成立すれば「これから先が大変になる」と高橋会長は言う。
「民間で自主的に規制しようという法案が成立すれば、民間団体のお手並み拝見、となるだろう。実効性がなければ『民間では無理』という話になり、国が関与してくるのはやむを得ないかなと思う。日本のネット業界はそんなやわなものではないと期待しているが」
高橋会長は、「学校裏サイト」について7〜8年前から認識し、問題視していたという。「7〜8年前、NTTに対して『こういったサイトの情報が欲しい』と話したが、『発信元がつかめない』と調べる意思もなかった。携帯サイトの場合、教師に相談しても『携帯を学校に持ってきていいとは言ってないのに親が持たせた。家庭で対応してくれ』と言われ、親がサイトに立ち入ると子どもが嫌がる。どこにも持っていきようがなかった」
法案に関する議論が盛り上がる中、業界内でも、サイト監視や自主規制の機運が盛り上がってきた。「ネットが進歩する中で問題が出てきたのは事実だが、ネットは絶対なくならない。今ネットを使いこなしている世代が大人になる10年後には問題はなくなっているだろうが、向こう5年くらいの間は、しっかり歯止めをしておかないと」
そのために、保護者や教師、子どもへのリテラシー教育が大切だと説く。特に保護者や教師は、子どもよりネットリテラシーが低いケースが多い。「多くの保護者にとって、ネットは“怪物”や“化け物”のような感じで覆いかぶさっているのが現状だ」
ネット業界からは「リテラシー教育の教材を提供したい」という声も挙がっている。「具体例で分かりやすく問題提起する教材を作っていただきたい。PTAは、届けるべき生徒と保護者の数を集められる。文部科学省に働きかければ、教育のための会場も安価に用意できるかもしれない」
教員採用試験にネット関する問題を出したり、小中高校にLAN回線を整備するなどし、学校でのリテラシー教育を進めるべきと説く。「子どもを真ん中にし、国も保護者も、やれることはいっぱいあるのではないか」
問題は未成年のネット利用だけではないとも話す。「将来、子どもがフィルタを外した時、今以上に乱れたネット社会があったら恐い。大人社会でのネットも、いずれは整備していく必要があるのではないか」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR