ITmedia NEWS > ベンチャー人 >

「シリコンバレーにいる意味は少ない」 “オタク”米国人、Yahoo!からソニーへ

» 2008年06月16日 07時00分 公開
[宮本真希,ITmedia]

 「世界に通用するネットサービスを作りたい」――米国人のマシュー・スカルムさん(33)は昨年、勤めていた米Yahoo!を辞め、日本にやってきた。今年3月から、ソニーの動画共有サイト「eyeVio」の責任者を務める。

 シリコンバレーで起業経験もある彼が、日本で働くのは2年ぶり。「万人に受け入れられるサービスを作るためには、母国を離れ、今までとは違う観点を持つことが重要だ」と、あえてシリコンバレーを離れた。

コンピュータとゲームの“オタク”だった

画像 マシュー・スカルムさん

 10代のころからコンピュータとゲームの“オタク”だった。高校生のとき開設した掲示板サイトには、ロシアやドイツ、イスラエルなど世界中から100人以上のオタク仲間が集まった。

 好きなゲームは「ストリートファイター II」。1994年・19歳のころは、日本からゲームを輸入・販売する会社で、ECサイトの運営を手伝うアルバイトをしていた。バイト代のほとんどはゲームソフトに消えたという。

 96年に大学を中退し、ネットマーケティングなどを手がける企業で働いた。99年、Webサイトの構築・コンサルティングを行う企業に移り、全米自動車協会(AAA)のWebサイトの構築などを担当した。

シリコンバレーで起業

 「コンピュータやゲームよりはまったのがインターネットだ」――99年、シリコンバレーで起業し、音楽サイト「kick.com」を開設した。kick.comは、自分が聴いている楽曲のリストや、アーティストの情報を共有できるサイトだ。

 当時Red Hot Chili Peppersが好きで、米Diamond Multimediaが最初に発売したMP3プレーヤーを使ってよく聴いていた。kick.comは、仕事が忙しい時にライブやCDの発売情報などを調べるのに役立てばと開設した。

 MP3プレーヤーを使って音楽を聴くスタイルが一般的になれば、PCと音楽がつながり、ネットを使って音楽情報を共有することも多くなるだろうと考えていた。ビジョンに賛同した複数の企業から総額7億円の出資もえて、月間のユニークユーザーは50万に拡大した。

 だが利益は一向に上がらなかった。サイトに広告を掲載したり、他社サイトにkick.comの機能を提供することで収入を得るモデルだったが「当時はiPodもまだ発売されていないころ。タイミングが早すぎて、広告主から理解されなかった」。kick.comを売却することを決めた。

「iモードってすごいらしい」

画像 「Macオタク」というスカルムさん。「自分の人生の75%の時間をMacとケータイに費やしてる」

 複数の企業にkick.comの買収を持ちかけたところ、最も高値での買収を提案した米Sonyに売ることにした。02年、売却と同時にSonyに入社。入ってすぐ、日本のソニーで働きたいという思いが芽生えた。きっかけは、NTTドコモのiモードを知ったことだ。

 「iモードという日本のサービスがすごいらしいとシリコンバレーでは有名だった。個人的にiモードについて調べるうちに、何かを変えていくサービスなんじゃないかという予感がした」

 といっても当時、日本のネットサービスについては「Yahoo!JAPANのように米国発のサービスをローカライズしたサイト以外は、iモードくらいしか知らなかった」のだが。

 04年、米Sonyから日本のソニーに移った。kick.comの仕組みを使って、音楽をリコメンドしたり、プレイリストをほかのユーザーと交換できる携帯電話向けサイト「うたとも」などを手がけた。

 子どもが生まれたこともあり、05年にシリコンバレーに戻った。Yahoo!に入社し、「Yahoo!Messenger」の責任者になり、機能やデザイン、ローカライズなど、サービスの方向性を決める仕事を任された。

「シリコンバレーにいる意味は少ない」

 Yahoo!で働いていたものの、「もっと国際的な仕事の経験を積んでいきたい」という思いがあった。「シリコンバレーは世界中から人が集まってくる場所だし、フランス人の母と米国人の父という多国籍な家庭で育ったというバックグラウンドがあるから」

 「シリコンバレーにいる意味が少なくなっている」とも感じ始めた。ブログやSNS、メッセンジャーなどさまざまなコミュニケーションツールが普及し、どこにいても情報共有できるようになったためだ。

 そんな時、再びソニーでネットサービスをやらないかと誘いを受けた。シリコンバレーで新たに起業したり、Yahoo!に留まってほかの国に赴任するなど選択肢はあったが、日本行きを決めた。

 「世界に通用するネットサービスを作ることがわたしのチャレンジだ。Yahoo!やiPodのように万人に受け入れられるものがある。そんなサービスを作るには、母国を離れ、今までとは違う観点を持つことが重要だと考えた。それに日本が恋しかった」

 「ソニーは、海外での売り上げも多く、会長は外国人という国際的な企業。国際経験を積むためには、ソニーに戻ることが最も良い選択だと思った」

「ニコニコ動画のコメントは知的」

画像 eyeVio

 昨年ソニーに復帰し、今年3月、動画共有サービス「eyeVio」の責任者になった。eyeVioの月間ユニークユーザーは約100万、月間ページビューは1500万。「ソニーの資産を生かしながら、YouTubeやニコニコ動画とうまくすみ分けてやっていきたい」という。

 競合サイトとは画質で差別化できると考えている。「eyeVioのコンセプトは『my life your emotion』。感動を共有するための手段の1つとして、画質が重要になってくる」。ハイビジョン画質の動画をアップロードできる機能も今後追加する予定だ。

 日本のネットサービスは「ユーザーのことをよく理解して作られている」と感じている。「ニコニコ動画のコメントは、すごく知的な使われ方をしている」

 「作り手とユーザーの層が重なっていて、自分のために作ったサービスがユーザーにも届く。ニコニコ動画もそうだ。ただそれだけでは、ユーザーの拡大に限界がある。eyeVioでは、いろんなユーザーの立場になってサービスをデザインしていく」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.