「不適切な記事を掲載し続けていたことは、報道機関として許されないことでした」――毎日新聞社は7月20日、英語版ニュースサイト「Mainichi Daily News」(MDN)の1コーナー「WaiWai」(現在は閉鎖)に不適切な記事が掲載され続けていた問題について、3ページにわたる検証記事をWebサイトに掲載した。問題になる以前に何度か外部から指摘があったが、放置していたことを明らかにし、「深刻な失態」として関係者の追加処分も発表した。
記事と謝罪は同日付けの紙面(1、22、23面)にも掲載した。「英文サイトをジャーナリズムとしてきちんと位置付けていたのかという姿勢が問われました。この問題で失われた信頼を取り戻すため、全力を尽くす決意です」としている。
MDNは9月1日にリニューアルし「正しい日本理解の素材を海外に発信するサイト」として立て直すという。問題の記事が掲載され続けたのは「チェック体勢の不備に加え、女性の視点がなかったことが一因」として、8月1日付けの新体制では編集長に女性を据える。
WaiWaiに過去に掲載された記事を転載しているサイトには、事情を説明して訂正や削除の要請を続ける。
「WaiWai」は、日本の週刊誌や月刊誌、夕刊紙などの記事を英文に翻訳して引用・転載しながら、日本の風俗を紹介する――という趣旨のコーナー。2001年4月から08年6月まで、原則として毎日、計2561本掲載されており、関連コラムを含むと計2907本あった。中には事実の裏付けのない記事や、誤解を招く記事があったことを調査で確認したという。
例えば「料理、獣、悪徳とその愛好者」というタイトルで異常な性的嗜好(しこう)の話を取り上げたものや、エクアドルやベラルーシなどで日本人観光客が違法ツアーに参加しているという記事は、「事実の裏付けもないまま翻訳して記事化していた」という。
また「サイゾー」の記事として、「防衛省が、美少女キャラクターが登場する漫画で防衛政策を紹介している」という内容を掲載した際、防衛省を「真珠湾攻撃と南京大虐殺で世界に名を知らしめた政府省庁の後継」と加筆したケースも確認。担当記者は「美少女とのギャップを浮かび上がらせるために書いた」と語っているという。
同社は、了解を得ずに利用した出版社やエクアドル、ベラルーシ両大使館など関係者に、説明と謝罪を続けているという。
WaiWaiの記事は、日英バイリンガルの担当記者が主に執筆。「性的な話題を取り上げると読者の反応が良かった」上に、「仕事を失うことに恐怖感があり、MDNを閉鎖する言い訳を誰にも与えたくない」といった理由から性的な内容を取り上げていたが、「担当記者が性的な話題を面白がることを心配する声もあった」という。
担当記者が読者を引き付けようとして、引用元の雑誌記事にない個人的な解釈を盛り込むケースも確認。担当記者が「編集長」の肩書きでMDNを統括していたこともあり、原典の雑誌記事との照合も行われないなどチェック体制も甘く、ほとんどの記事が外国人スタッフの間で完結していたという。
サイト上には「雑誌記事の翻訳で、表現やその内容には責任を負いません。記事の正確さについても保証しません」と書いていたが、本紙記事と区別しない読者もいた。
記事内容について社内の女性記者や社外の読者から警告や批判があったが、放置していたという。社外からは昨年10月に「論理的に考えれば記事はウソに違いない」「日本文化をよく知らない人たちに誤解を与える」というメールが届くなど何度も警告があったが、具体的な対応は取らなかった。
2ちゃんねるに「WaiWai」に関するスレッドが立った5月下旬からWaiWai閉鎖の6月21日まで、1カ月近く経っている。対応に時間がかかった理由として磯野彰彦デジタルメディア局次長(当時)は「5月中に報告を受けた記憶はあるが、重大なことだという認識がなかった」と話しているという。
MDNのトップページのメタタグに「hentai」「japanese girls」「geisha」などが設定されていた(現在は削除)ことについては、「外国人スタッフが昨年8月、これらの単語をキーワードに指定して技術スタッフに伝えたメールが残っている」という。
この外国人スタッフは、「hentaiは英語圏ではアダルト系漫画・アニメを指す英単語として浸透している」と解釈していたという。
同社内で検証に当たったチームは、問題の直接の原因として(1)原稿が妥当かどうかを精査するデスク機能がなかった、(2)執筆陣が男性に偏り、女性の視点がなかった、(3)スタッフは外国人のみで日本人の視点が欠けていた――ことを挙げた。
また「元の記事の内容について責任を負わないし、正確さも保証しない」という断り書きを付けることを免罪符に不適切な記事を書き続けたことについて「記者倫理を大きく逸脱したもの」と批判する。
さらに「海外も含めた社外に英文で情報を発信することの重要さについての認識が社全体に足りなかった」と指摘。「外部の声に真摯(しんし)に耳を傾ける姿勢が担当記者にも幹部にも欠けていた」としている。
調査結果を受けて同社は20日付けで、渡辺良行常務(99年4月から04年6月まで総合メディア事業局長)を、役員報酬を20%(1カ月)カットとしたほか、元編集部長1人も処分した。
同社の第三者機関「開かれた新聞」委員会の委員4人からのコメントも発表した。作家の吉永みち子さんは、同社が関係者の処分を発表した際に「明らかな違法行為には法的措置を取る」と加えたことについて触れ「理解しがたい。まず謝罪すべき段階に、自分も被害者だと言ってしまうのでは納得を得られない」と指摘。作家の柳田邦男さんは「読者からのクレームにきちんと対応しなかったことが一番の問題」などとコメントを寄せている。
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