地図と連動したユーザー投稿型の写真サイトなど、ストリートビューと似た機能を持つサービスは少なくない。だがGoogleほどの影響力を持つ企業が運営していなかったり、撮影者がユーザー自身である、という点が異なり、これまであまり議論されてこなかったと考えられる。
ストリートビューに似たサービスは日本にもすでにある。「Location View」が代表例だ。運営するロケーションビューから話を聞いた中川さんによると、スタートから2年経ったが、同社には苦情は1件も来ていないという。
人の顔や車のナンバーを自動認識技術でぼかしているGoogleと異なり、ロケーションビューでは目視で削除しているという。こういった“日本的な細かい気配り”が問題を回避しているのでは、と中川さんは指摘する。
「Googleは、撮影車の車高を低くするなど、できるはずの工夫もしていない。気配りの違いは、企業としての経営判断の違い。ストリートビューに関してネガティブな話題が中心になったのであれば、Googleは経営判断に失敗したのだろう」(八田さん)
Googleが事前に許諾を得ることなく撮影し、問題があった場合は後から申告すれば対応するというオプトアウト方式を採ったことにも批判がある。
「オプトアウトはビジネスにはメリットがあるが、情報を守る上では得策ではない」と山田さんは言い、メディア企業として高い倫理観が求められるGoogleは、オプトアウトで満足してはいけないと話す。
「手間暇かければ顔も表札も消せるはずだが、安上がりを狙ってオプトアウト方式を採ったから問題が起きる。ストリートビューがやっていることは地図業者に近いが、個人情報保護法で地図業者は一般企業より厳しい基準が課されている。同様の基準で考えていくべきだろう」
この問題にはプライバシーに対する意識の変化が絡んでいる。「この20年でプライバシー意識が変わった。昔の人はタウンページに名前を載せていたし、通販業者は名簿を売っていた。当時名簿を売るということは当時は違法視されていなかったが、今やると問題だ」(壇さん)
河村さんによるとGoogleの担当者は「米国の高級住宅地では表札は出さないものだ」と話し、日本人はプライバシーに対する意識が低いと指摘したという。「『表札を出しているからプライバシー意識などないはず』と言い放ったことに対して反感を覚えた。アメリカの高級住宅地の方々の感覚でなぜ日本の地域社会の人を測るのか」
八田さんは「アメリカの家は前庭があるから、道から撮影しても表札や家の中は見えづらい。そのあたりを汲んだサービス設計をすべきだったのでは」と指摘する。その一方で「プライバシーを言う人は若干自意識過剰ではないか。『気持ち悪い』という意識は、明治時代に『写真を撮られると魂を抜かれる』と言っていたのと同じに聞こえる」と皮肉った。
中川さんは、ストリートビュー問題がGoogleのイメージを崩し、「Googleは情報の独占を目指しているのでは」と疑われ始めるきっかけになったと指摘する。「Googleは何をやりたいのか分からない」という意見も、複数のパネリストから挙がった。
ただ「分からないから規制する」という短絡的な考え方は避けるべきだという意見も。Winny開発者の金子勇さんを弁護した壇さんは「技術はある程度動くことで応用例が出てくる。P2P技術も著作権侵害のための技術だと言われていたが、今はコンテンツデリバリーに使われる。今の時点で全否定は好きではない。将来的にどう良くするかだろう」と話した。
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