「広告収入で成り立たせる無料モデルは、もう限界だ」――カフェスタの上澤馨(うえさわかおる)社長は言う。「広告モデルはバブルが作ったモデルだった」と。
カフェスタは、アバターを使ってコミュニケーションできるSNSで、登録会員数は約178万、月間ユニークユーザーは50〜60万、月間ページビューは約8000万。基本サービスは無料で利用できる。
主な収入源は広告で、以前は月間数千万円の広告収入があったが、ここ最近の不景気で出稿が激減したという。アバターも販売しているが、無料のポイントで手に入るものも多く「月間数百万程度の収入にしかならない」状態。かなりの赤字が出ているという。
赤字を解消し、運営を継続するには――同社が採ったのは、なりふり構わずユーザーに訴えかけるという手段だ。Webサイトの「お知らせ」やメールマガジンで「現在の収益のままではサイトの運営を停止せざるを得ない状況」と告白し、会員に対して「今後も継続運営するために、パスポート会員(有料会員)になっていただくか、アバターなどのお買い物をしてもらえないか」と呼び掛けた(「サイト存続のため、アバター買って」 カフェスタが異例の呼び掛け)。
無料の人気サービスで大きな赤字が出ていたり、利益がほとんどないというケースは少なくない。ユーザーがサービスの運営を心配したり、自らサービスを支えていこうという動きも出ている。
例えばイラストSNS「pixiv」は、アクセスの急増でサービス継続が困難とし、新規登録を一時停止。ユーザーからは経営を心配する声が寄せられたという(「pixiv」が新規登録受け付け再開 招待制は廃止)。「ニコニコ動画」では、赤字が続いていることを懸念したユーザーが「有料会員になろう」と呼び掛け、実際に有料会員が増えている(ニコニコ動画の有料会員、ユーザーの呼び掛けで増加)。SNS最大手のmixiでも、ユーザーがmixiのもうけ方を考えるというイベントが開かれたこともあった(Webサービスのビジネスモデルはユーザーが考える時代?)。
カフェスタは2002年、パワードコムの事業として始まり、韓国Daum Commucations子会社などを経て今年4月にMCJグループに入った(アバターコミュニティー「Cafesta」がMCJ傘下に)。
MCJグループはデジタル機器の製造・販売を主に手がけてきており、PCのマウスコンピューターや、デジタルオーディオのiriver japanなどを傘下に持つが、ネットサービスはカフェスタが初めてだ。
カフェスタを買収し、ネットサービスに参入した理由を、上澤社長はこう説明する。「グループでWiMAX端末事業への参入を計画しているが、WiMAX搭載機を販売する際、接続先として、ある程度ネームバリューがあり、ユーザーを確保しているサイトが欲しかった」
だが実際に買収して「開けてみてびっくりした」という。WiMAXをいち早く試すような、最新PCデバイスに興味があるコアな層が利用していると期待していたが、カフェスタは20代〜40代の女性ユーザーが中心。「お弁当の写真を募集すると一気に5000〜6000枚も集まるような生活に密着したサイトで、WiMAXにはリンクしなかった」
しかも前の運営企業が「収益面であまり真剣にやっていなかった」こともあり、大きな赤字が出ている状態。運営を継続する経済的なメリットが見えない状況だった。「グループの中で赤字なのはカフェスタだけ」と、iriver japanの会長も務める上澤社長は苦笑する。
加えて「ユーザーが『タダで遊ぶのが当たり前』と思っていることに驚いた」という。MCJグループのデバイス事業部門責任者として、商品を販売し、価値に見合った対価を得るというリアルビジネスを続けてきた上澤社長にとって、「無料で価値あるサービスが受けられるのが当たり前」というコミュニティーサイトユーザーの感覚は、理解し難かった。
mixiやGREE、モバゲータウンなど、国内の人気SNSの多くは広告モデルで運営されており、基本機能を無料で利用できる。カフェスタもこれまでは収入のほとんどを広告から得ていたが、もともと赤字が続いていたところにここ最近の不景気が追い打ちをかけ、広告モデルでは立ちゆかなくなってきた。
上澤社長は「広告モデルはバブルが作ったモデル」と見る。「広告は、景気が悪くなると最初に削られていく」――不景気でネットの広告市場も冷え込みつつある今、コミュニティーサービスも新しいモデルに転換すべき時期だと話す。
新しいモデルとは、広告に頼らず、サービスの価値に見合った対価をユーザーに支払ってもらうというもの。11月に導入した有料会員制「パスポート会員」は、その第一歩だ。
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