“あの楽器”と呼ばれる謎の楽器が「ニコニコ動画」(ニコ動)で注目を集めている。昨年12月に投稿された「【初音ミク】Innocence【3DPV】」という動画の冒頭で、「初音ミク」が演奏しているCGの楽器だ。
ショルダーキーボードのような形だが鍵盤はなく、鍵盤に当たる部分にはディスプレイが付いている。ディスプレイをタッチしながら演奏し、タッチのたびに緑色の直線や四角、丸などの模様が現れる。
「ニコニコ技術部へのお願い・これ作って!」――こんなタイトルで、あの楽器を実際に作ってほしいと訴える動画も投稿された。この要望に応え、複数のユーザーがあの楽器制作にチャレンジしている。
ニコ動では「あの楽器を作ってみた」と題し、タブレットPCやiPhoneなどを使って再現した動画が投稿されている。あの楽器のiPhoneアプリ「ouiLead」(無料)をAppStoreで配信しているユーザーもいるほか、あの楽器について議論するミーティングも2回開かれるなど盛り上がっている。
「電脳フィギュア ARis」で知られる芸者東京エンターテインメント(GTE)も2月20日、あの楽器のiPhoneアプリを公開した。価格は115円で、収益の一部は、「【初音ミク】Innocence【3DPV】」の投稿者や、あの楽器を盛り上げている「ニコニコ技術部」などに還元したいと考えている。
GTEのあの楽器アプリは、iPhoneを横向きにして使う。ディスプレイをタッチすると電子音が鳴り、上側をタッチするほど大きな音が、右側ほど高い音が出る仕組みで、指を横にスライドさせれば音階を奏でられる。最大5本の指で同時にタッチし、和音を出すことも可能だ。
どこをタッチすればどの音が出るかを示す目印がないため、演奏は難しそうだ。GTEの田中泰生社長も「尺八みたいなもので、音は出せてもメロディーを奏でるのが難しい。そのぶん弾けるとうれしいし、感動する」と話す。
タッチした瞬間、ディスプレイにはランダムな傾きの緑色の線と、四角、丸、三角、星型などの模様が現れ、ぼんやりと消えていく。開発したGTEの青木貴司さんは「演奏だけではなく、画面のきれいなエフェクトを楽しんでほしい」と話す。
青木さんは、Twitterのほかのユーザーのつぶやきであの楽器を知り、その日のうちに4時間ほどかけてアプリを完成させたという。「面白そうと思い、どうやって作ろうかと10分くらい考えて、サクっと作った」
東京大学大学院の博士課程で画像処理を研究し、情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」にも参加している青木さん。アプリは、未踏で選ばれたプロジェクトの開発の合間に「息抜きとして作った」と話す。
アプリをプロモーションするための動画も制作し、ニコニコ動画で公開した。GTEの社員が初音ミクのコスプレ姿で登場しており、衣装は1着10万円したという。渋谷などの街角や、スタジオを借りて撮影した「予算の無駄使い」(田中社長)動画だ。
アプリは115円で販売する。収益の一部は、「【初音ミク】Innocence【3DPV】」の投稿者やあの楽器の実現に取り組む「ニコニコ技術部」などに寄付したいと考えている。だが、「【初音ミク】Innocence【3DPV】」の投稿者とは「連絡が取りようがなかった」(田中社長)ため、収益分配の具体的なプランは未定だ。
有料化を決めたのは田中社長。ネットユーザーが盛り上げてきた“ネタ”を使って収入を得ることについて「賛否両論あると思うが、“ネタ課金”にどういう反響があるか試してみたかった。これは実験」と話す。
田中社長は「面白いものや役立つものがもうかっていない最近のWeb社会を憂えている」という。ネットではもうけようとする行為を嫌う向きも強いが、田中社長は「ユーザーはネットでもっとお金を使うべき」という考えだ。「ユーザーがネットで十分な収入を得、ネットサービスやコンテンツにもっとお金を使うようになれば、CGMがもうからないという問題が解決する」
GTEがアプリ収入の一部を、あの楽器を取り巻くユーザーに還元すれば、そのお金がほかのネットサービスで使われたり、新たなアプリ開発費に当てられるといった金銭の流れを生み「面白いものが報われるようになる」(田中社長)と期待している。ネタ元動画の制作者にアプリ販売を反対されれば、すぐに中止する考えだ。
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