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「それはできない」とは言わない 急成長する音声コミュニティー「こえ部」「1を10にする」ネットサービスの育て方(2/2 ページ)

» 2009年03月17日 16時42分 公開
[古川健介(ロケットスタート),ITmedia]
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 「お問い合わせには、必ずポジティブな返答にするように気を付けています。こえ部に対して不満を言ってくる人もいますが、意見を言うということは、どうでもいいとは思っていないはず。『それはできません』という返信はしないようにしています」

 こえ部のお問い合わせ窓口には、サイトの改善提案もよく来るそうです。多い時は、お問い合わせの半分近くを占める時もあるとか。運営者との距離が近いためでしょう。

 「新機能をリリースすると『この機能はこうしたらどうですか』という提案が来ることもあります」(大塚さん)

 ベテランユーザーが何人か集まって、こえ部に対する提案書を作ってくれたこともあったそうです。

 「Wordできちんと提案書を作ってくれて(笑)。実際に、いくつか改善案は実行しました。こんなに親しみを持っていただける、というのはかつてない感じでびっくりしています」(軍司さん)

開発は「お問い合わせドリブン」

 寄せられるユーザーの声に対して、運営側はどう対応していくのでしょうか。ユーザーの意見は一切聞かないでポリシーを貫く、という考えもありますし、参考になる意見があれば取り入れる、という考えもあるでしょう。

画像 村瀬さん

 こえ部はそのどちらでもありません。「僕たちはお問い合わせドリブンで開発をしていく」(村瀬さん)のです。「参考になる意見なら取り入れる」というレベルを超え、お問い合わせからの意見を中心にした開発。運営側が権力を振りかざすのではなく、あくまで場に徹し、ユーザーが作っていく、そんな運営方針が見えてきました。

 「ユーザーの意見を聞くなんてどこもやっていることじゃないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、実際にやってみると分かりますが、ユーザーの意見を取り入れるというのはものすごく難易度が高いやり方なのです。

 似ている状況としては、いろいろな意見を持った人が数十人いる会議が近いでしょうか。みんなが勝手に自分の好きなことを言って、それを自分がまとめて1つの結論を出すのを想像してみてください。あっちを立てればこっちが立たず、となっていき、場を収束させるには非常に手間がかかります。

 ユーザーの意見を取り入れるだけでも一苦労なのに、その内容を開発の中心に置いて考えるというのは、相当な手間になります。運営の芯がないと出来ないやり方ですし、ユーザーからの信頼感も必要です。一朝一夕では真似のできないやり方と言えるでしょう。

BANではなく「お口にチャック」

 運営との距離が近いといっても、どうしても問題を起こすユーザーは出てきてしまいます。例えば、「こえ部LIVE」と呼ばれるリアルタイムの声のチャットサービスでは、迷惑な発言をする「荒らし」が発生することがあります。

 「こえ部LIVEに、迷惑な発言や行為をする人はどうしてもいて。ユーザーからは『BAN機能(ユーザーを強制的に退室させる機能)を付けてくれ』という要望も多かったんです。この対応については社内でも相当議論しましたね」(大塚さん)

 最終的に、こえ部が作った機能は「お口チャック」と呼ばれる機能です。これは、管理者が迷惑ユーザーにチャックをすると、迷惑ユーザーの声や書き込みが、ほかのユーザーには届かなくなるというものです。

 迷惑ユーザーは、自分が「お口チャック」をされたことには気付きません。そのまま荒らし行為をして他人に迷惑をかけているつもりでも、ほかのユーザーにはまったく影響がない、という仕組みになっています。

 「荒らしに自分の声を聞かれるのも嫌だから、完全に退室させたい、という意見もあります。しかし、あくまでこえ部はオープンなサービスです。その運営ポリシーは守りたい」(軍司さん)

 FAQには「みなさまがマナーを守って、思いやりを持っていれば必要ない機能だとは思いますので、なるべく、あまり使わないでいただきたいなぁ、と思っています」と書いてある。運営側はあくまで場に徹し、ユーザーの自主性に任せたいという気持ちがここからも分かります。

運営者の「愛」がユーザーの愛につながる

 こえ部がこれほど愛される理由、それはやはり運営者がユーザーを愛しているということが明確に分かるからです。

 ユーザー同士のトラブルや、機能についての批判要望には、かなり真剣に議論をしていることが、取材を通じてすごく伝わってきました。

 運営側が決めた基準を押し付けるのではなく、ユーザーが作った文化や空気を大切にして、その都度、社内で議論を重ねて対応をしていく。お問い合わせ内容には真摯(しんし)に向き合い、本気でどう対応するか考え抜く。迷惑ユーザーを弾くシステム1つにしても、どうすればサイトの雰囲気とマッチするかを考える。1つ1つの行動がユーザーに伝わり、ユーザーも運営者に対して貢献をしようと真剣になっているのです。

 「ユーザーからの愛も製作者側からの愛も、どちらが一方通行でも成り立たないからなぁ」

 同社の片岡巧さん(広報担当・ディレクター)が言ったこの言葉がすべてを表している気がしました。

古川健介

画像

 1981年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中に、中高生コミュニティー「ミルクカフェ」や2ちゃんねる型レンタル掲示板「したらば」を運営。現在はロケットスタート社長で、コミュニティーを中心にしたネットサービスの立ち上げ、運営を手掛ける。


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