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“ニコ厨”ではないけれど ゆうきまさみ×ボカロP「kz」のコラボCDができるまで

» 2009年08月26日 14時52分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 曲からイメージしてイラストや漫画を描いたり、イラストや漫画に曲を付けたり――作家同士のこんなコラボレーションは、珍しくない。だが、ゆうきまさみさんとkz(ケーゼット)さんの場合は、少し違った。

 曲が先にあったわけではなく、イラストや漫画先行でもない。それぞれの考えをぶつけあいながらイメージをふくらませ、曲やイラストを投げ合い、1枚のCDアルバムを完成させていった。

画像 ゆうきさんが描いたCrosslightのジャケット

 8月26日発売の「Crosslight」は、kzさんが作った7曲に、ゆうきさんのイラストや漫画入りブックレットなどを付けた共同作品。気の合う仲間で作った同人誌のように、参加した人みんなで作り上げていった。

 ゆうきさんは、「究極超人あ〜る」「機動警察パトレイバー」などで知られるベテラン漫画家。kzさんは、「初音ミク」などVOCALOIDを使った人気楽曲ユニット「livetune」の1人で、メジャーアルバム「livetune feat.初音ミク」がオリコン週間ランキング5位に入ったこともある。

 親子ほど年の差がある2人を結び付けたのは、初音ミク曲だった。

「いいじゃん、これ!」

画像 ゆうきさん

 「いいじゃん、これ!」――ゆうきさんが初めて聴いた初音ミク曲は、kzさんが作った「ファインダー」。昨年3月のことだ。

 出合いは偶然だった。たまに見に行く社会派ブログに、初音ミクの3DCGが踊るYouTube動画「くるっと・おどって・初音ミク」が載っていた。「かわいいと思って」見てみると、関連動画トップに表示されたのがファインダーだった。

 一発で気に入り、繰り返し聞いた。コメント欄にあったファンのコメントから、「Packaged」や「ストロボナイツ」などほかの曲も知った。「全部良い! と感動して、思わず日記に書いてしまったんです」

 ゆうきさんは公式サイトの日記に、3曲のYouTube動画を貼り、「俺的名曲」と絶賛。その内容はニュースサイトに取り上げられ、「ゆうきまさみは“ニコ厨”!?」とネットで話題になった。


画像 kzさん

 だが当時、ゆうきさんはニコニコ動画のIDも持っていなかった。日記に張ったYouTube動画が削除されデッドリンクになった時、代わりにニコ動へのリンクを貼り、初めて「ニコニコ動画」のIDを取って動画にアクセスした時、コメントでの“ニコ厨”扱いに驚いたそうだ。

 ゆうきさんが自分の楽曲をほめていたと知りkzさんは、「いやー、マジでビックリ!ネットってすげぇ!」ブログに書いた。それっきりだと思っていたが、意外な展開が待っていた。CD製作などで知り合ったレーベル・LOiDのスタッフが、ゆうきさんに連絡を取ってくれたのだ。

 昨年夏。ゆうきさん、kzさん、LOiDのスタッフ、ゆうきさんのWeb関連の窓口を担当している多聞のスタッフが集まり、作戦会議が始まった。ゆうきさんとkzさんで一緒に何かできないか。考え始めた。

 2人は何が好きで、どんなものを聴いてきたのか。iPodをスピーカーにつないで、お気に入りの曲を再生しながら話し合った。ゆうきさんは、永井真理子さんの曲を再生していたと振り返る。音楽とビジュアルをぶつけあい、VOCALOIDを使ったCDアルバムを作ろう。そう決まり、共同作業が始まった。

 「歌うことしかできない女の子型アンドロイド『KZR-28』と、それを作った博士がいる。KZR-28はある日、行方不明になり、少年に発見されて『ねおん』と名付けられる」――話し合う中でストーリーの大枠が決まり、それぞれがキャラクターや音楽をイメージしていった。

画像 ブックレットの最後は設定資料集。ゆうきさんが描いたキャラクターと解説が載っている

 週刊連載をかかえるゆうきさんは超多忙。イラストは、仕事場や深夜のファミレスで描いた。kzさんと会う時間もほとんど取れないため、専用のアップローダーを作り、オンラインで意見や作品をやりとりした。直接会ったのは5〜6回だが、オンラインのログは膨大だ。

 「曲が先でもイラストが先でもなく、フラットな感じ。参加者全員で作ってる、誰もリードしてない」。そんな作り方だったとkzさんは振り返る。ゆうきさんがデビュー前に手掛けた、同人誌や2次創作に近い作り方。「1人で考えると1人分の知恵しか出てこないけど、1人で作る作業じゃなかったから面白かった」(ゆうきさん)

 CD製作と並行して昨年秋ごろから、ゆうきさんは「メグッポイド」のキャラクター「GUMI」デザインに取り組んでいた。普段、ストーリーと同時にキャラを組み立て、マーケティングもしたことがないというゆうきさん。背景にストーリーがなく、マーケティング的要素も求められるメグッポイドのデザインには苦労したという。

 完成した作品は、kzさんが作った7曲入りCDと、ブックレットのセットだ。ブックレットは、アンドロイドの「ねおん」と「博士」「少年」、GUMIなどが登場する本筋のストーリーと、ストーリーに忠実に描いたうっけさんのカラーのイラスト、そして、ゆうきさんが描いた設定資料と漫画で構成されている。


画像 うっけさんのイラストの一部
画像 ゆうきさんの漫画の一部

 ゆうきさんの漫画は、「本筋のストーリーが展開しているころ、博士は何をしていたかという、2次創作」だと笑う。アンドロイドの名前「KZR28」は、ゆうきさんの代表作の1つ「究極超人あ〜る」の主人公「R・28号」の2次創作でもある。


画像 企画には、多聞の篠田匡史社長(左)やLOiDの村田裕作さん(右)も参加

 「僕は同人誌出身で、もともとパッシブなところがあるので、(ストーリーを)受けて描く、2次創作くさい作り方はやりやすかった」と振り返る。自分の作品の2次創作も「チェックはしていないが、うれしい」そうだ。kzさんは「サントラを作るような感覚で作った。エッジな音楽ではなく、聴きやすいものにした」という。

 みんなで創る作業は、「放課後の教室で馬鹿なことを話し合ったら、本当に文化祭でやっちゃった」(LOiDを運営するハッチ・エンタテインメントの村田裕作さん)という感覚。作り手が最大限に楽しみながら作ったこのCDは、プロの漫画家が忙しい合間をぬい“本気で遊んだ”作品だ。

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