「ソーシャルメディアをマーケティングに活用しようとする企業は多い。だが、多くの企業はソーシャルメディアの価値をビジネスに生かせていないのが現状だ」――米Adobe Systemsのブラッド・レンチャー氏はこう語る。同氏はAdobeが2009年に買収した米Omnitureから業務を引き継いだ「オムニチュア事業部門」のトップとして、アクセス解析ツールの提供などを通じた同社のマーケティング支援業務を指揮している。
今年6月、Adobeはマーケティング支援ツール「Adobe Online Marketing Suite powered by Omniture」の新製品、「SocialAnalytics」のβ提供を米国などで開始した。同ツールはTwitterやFacebook、ブログ、YouTubeなどにおける人々のやり取りをモニタリングし、トラフィックやコメントのセンチメント(感情・心情)などを測定するWebアプリケーション。8月15日に正式版をリリースし、今年末に日本語対応させる予定だ。
人々の暮らしにソーシャルメディアが浸透する中、SocialAnalyticsはビジネスのあり方にどのような変革をもたらすのか。Adobeが描くマーケティングの未来とは――。レンチャー氏に話を聞いた。
「マーケティングにソーシャルメディアを活用しようとする企業の多くは、どのようにソーシャルメディアを使い、どのような効果を期待するかを明確化できていない」――レンチャー氏はこう指摘する。明確な方法論を持たず「とりあえずソーシャル」という考えでソーシャルメディアを利用しても、マーケティング上の大きな効果は期待できないという。
多くの企業がソーシャルメディアを使いこなせない原因となっているのが、ソーシャルメディア上に流れる消費者の“口コミ”の測定の難しさだ。自社の商品やサービスに関し、Web上のどこでどのような話題が起きているのかを把握しにくい現状こそが、企業マーケティングにおけるソーシャルメディアの有効活用を難しくしているという。
「企業が世に出すコンテンツやメッセージは、ソーシャルメディア上で消費者によって自由に評価されるようになった。こうした中で企業に求められるのは、口コミの広がりをサポートするのか、消費者をファンとして取り込んでいくのか、戦略面をしっかり定めることだ。そのためには、ソーシャルメディア上で自社に関係するやり取りをする人々の動向を把握する必要がある」
「ソーシャルメディア上での口コミ効果は絶大で、誰かがマイナスイメージのことを言っただけで、それがどんどん広まってしまう可能性がある」とレンチャー氏。プラスの評判だけでなく悪評も広まりやすいソーシャルメディアを企業が活用するには、通常のマーケティング施策を行うとき以上の注意が必要だという。
しかし、ソーシャルメディアのバイラル性をうまく生かせば、非常に大きなマーケティング効果を生むこともできるとレンチャー氏は言う。その一例として同氏が取り上げたのは、米国の航空会社Virgin Americaがソーシャルメディアを活用して実現した“幸運のマーケティング”だ。
「Virgin Americaではかつて、1人の乗客が機内で感じた不満をTwitterでつぶやいたのをきっかけに、同社への悪評がTwitter上で広まりかけるという事態が起きた。しかし幸運なことに、客室乗務員の1人がそのつぶやきをたまたま発見したことで、同社は即座にその乗客に適切なおわびをすることができた。乗客がそのことを再度つぶやいた結果、Twitter上で広まりかけていた同社への悪評は収まり、逆にその何十倍もの良い評判が広まっていった」
同社のこの対応は、乗客のTwitter上のつぶやきを乗務員がたまたま発見したという偶然によるものだ。しかしSocialAnalyticsによって自社に関係する話題がソーシャルメディア上でどの人物からどのように広まっていったのかを可視化することで、こうした偶然を必然に近づけることも可能になるとレンチャー氏は力を込める。
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