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「物語の中に入り込むのが大好きなんです」 内田恭子さんわが座右の書(2/3 ページ)

» 2011年12月14日 12時00分 公開
[取材・文/伏見学,ITmedia]

朝食は必ず家族みんなで

 特にこの数年間は、結婚、そして出産を経験したことで、物事に対する考え方がいろいろと変わりました。例えば、食べるということに関して、自分一人で生活しているときは、「とりあえず何か食べておけばいいや」とか、「ご飯を食べる時間があったら寝たい」と思ったことも多々ありました。けれど、結婚してから食事のバランスを考えるようになりましたし、さらに子どもが生まれて、何を食べるかということだけではなく、食べる環境も大事だなと思うようになりました。

 わが家は夫婦ともに働いているので、毎食家族そろって食卓につくことはできません。だから、子どもが生まれたときに主人と話し合って、どんなに疲れていても、眠くても、毎朝必ず早めに起きてみんなで朝食をとることを決めました。そうした場があるおかげで、お互いにいろいろな話ができるし、息子の成長も見ることができます。たとえ一食でも家族全員がきちんと座ってご飯を食べるというのは大切だと感じています。食べることは、ただお腹を満たすだけではなく、精神的な部分にもつながっていくのです。

 現在、世界の食問題に熱心に取り組んでいる団体「TABLE FOR TWO(TFT)」にアンバサダー(大使)としてかかわらせていただいているのも、そうした心境の変化が大きいでしょう。また、自分の子どもだけではなく、ほかの子どもたちに対しても、何かできることはないかと考えるようになりました。

 TFTに参加する元々のきっかけは、昨年、ある企画で代表の小暮真久さんとトークショーをしたことでした。社会貢献に対して彼は先進的な考え方を持っていると思うのですが、米国で育った私にとって、肩肘張らずに社会貢献をするということはごく自然なことで、とても共感できました。

 TFTでの私の仕事は、団体の認知をもっと世の中に広め、子どもたちや親たちが食問題を身近に考えてもらうきっかけを作ることです。そうした取り組みの中で生まれたのが、初めて書いた絵本「みんなで いただきます」です。

本当にかわいそうなのか?

 絵本を作ろうと決めたとき、既に私の中では「食」「世界」「子ども」というテーマがそろっていました。それを基にストーリーの展開を考えていったわけですが、取り上げるテーマがテーマだけにとても苦労しました。子どもたちに分かりやすく、けれども伝えるべきことはきちんと伝える必要がありました。特に気を配ったのは、物語に登場するどの子どもたちも、かわいそうだと思わせてはいけないという点です。

 例えば、食べるものを持っていない、みなみのくにのマヤちゃんという子どもが登場します。一見かわいそうかもしれませんが、彼女を卑屈にさせてはいけないし、どうやってほかの子どもたちと一緒に笑顔で楽しくいられるようにできるだろうかと、とても深くストーリーを考えました。誰か一人をかわいそうな子にしてしまうことは避けたかったのです。

 そもそも、私たちはモノがない人をかわいそうだと思いがちですが、そういった印象を子どもたちに与えたくありませんでした。なぜなら、物語に登場するマヤちゃん以外の子どもたちもそれぞれの食問題を抱えており、人によっては、食べるものがたくさんありすぎるからかわいそうだという考えもあるからです。

 そのような先進国で起きている問題に対しても、真剣に考えないといけない時期にきています。例えば、家族がいるのに忙しくて同じ食卓につけず、子どもが一人きりでご飯を食べていたり、お母さんが作るご飯を食べないでコンビニで買ってきたものばかり食べている子どもがいたり、好き嫌いがあってお菓子しか食べない子どもがいたりと、多くの問題があります。けれども、こうした問題は「ものを食べているじゃないか」という理由で非常にないがしろにされがちです。食べ物がない国のことを大変だと思うのと同じくらいに、こうした問題にも目を向ける必要があります。

 世界中がそれぞれ平等に食問題を抱えていて、みんなが一緒になることで解決もできるんだよということを、この本を通して伝えたかったのです。

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