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「中二」という病(やまい)と音楽産業新連載・部屋とディスプレイとわたし(2/3 ページ)

» 2012年05月21日 17時11分 公開
[堀田純司,ITmedia]

 しかし現代社会では、こうした思春期的心情もずいぶんと変化してしまいました。現代において「中二病」というと、社会への理由なき反抗よりも自分自身が焦点。具体的な例でいうと、自分自身のバックボーン(この世界の邪悪なものと戦う選ばれし戦士)や、それにともなう能力(邪気眼に代表される超常のパワー。悪を見抜く眼力や、手の平からビームが出るなど単純なものが多い)などの妄想を指します。

 これをこじらせると、たとえば友人に「やめろ。その程度の攻撃で俺は倒せん。死ぬぞ」などとささやいてしまったり、天候が悪化して黒い雲が空を覆うのを見ただけで、「ついに来たか。覚醒の刻(とき)が」などとつぶやいてしまったりするようなハメに陥ります。この病は罹患しているときはほとんど自覚症状はない。しかし寛解した後に思い返すと「アアーッ」と絶叫してしまうという、恐ろしい病気です。現代の「中二病」は、こうしたファンタジックな空想に、重点を移してきました。

音楽産業の空隙に現れた「初音ミク」

 こうした「現代中二」的心情を汲み上げることは、もともとどちらかというとリアルが充実した人々向けのメジャーエンターテインメントであった音楽産業では、本質的に難しいのでしょう。逆に、得意とするのがライトノベルであり、この分野が出版界の中で相対的に注目を集めているのはもっともなことだと感じます。

 逢いたくて逢いたくてとまらない現代の音楽産業が、どうも恋愛過多に感じられるのも、かつては得意にした青い「理由なき反抗」がもはやメジャーエンターテインメントとしては通用しづらくなった。かといって会社の偉い人たちには、ロックは理解できても現代的中二は理解できない。そのために音楽産業への大切な入口である思春期の少年少女の心をとらえることができていないのではないかと思います。

 少々暴論ですが、日本のヒップホップが往々にして人に感謝してばかりいたり、愛を語る「文系ヒップホップ」に傾斜しがちなのも、「政治家こそがよっぽどギャングスタじゃねーかYO!」などと叫ばれても、ちっとも現代中二的な感性にはピンとこないためではないかと思っています。私はこれを日本のラップにおける「悪いヤツみんな友だち」の呪いと呼んでいます。

 ただ「音楽産業にとって現代中ニは不得意」と書きましたが、それは「“音楽”が現代中二を不得意にしている」という意味ではまったくありません。全然そんなことはなく、たとえばアニメーションの主題歌や、特に声優さんたちの音楽。それにヴィジュアル系バンドなどは、こうした現代中二的ファンタジーを音楽として汲み上げており、熱く支持されています。紅白歌合戦に声優さんが登場するようになったのも、必然の流れでしょう。

 さらに、ニコニコ動画にアップされる初音ミク音源作品なども、2次元キャラを依り代に伝えられるその歌詞がしばしば現代の若者の思春の心情を背景にもっており、この分野が支持される理由は、実はボーカロイドのポテンシャルだけではなく、既存の音楽産業では経験のできない世界観も大きいのではないかなと思っています。初音ミクさんの紅白登場が待たれるところです。やるなら今年がよいのでは? もちろん赤組で。

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