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「成功する自信あり」――ソフトバンクのSprint買収、孫社長の勝算とは(1/2 ページ)

» 2012年10月15日 23時24分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「リスクは大きいが、成功する自信はある」――ソフトバンクの孫正義社長は10月15日、都内で会見し、米携帯電話事業者3位のSprint Nextelを約201億ドル(約1.57兆円)で買収すると発表した。買収によりソフトバンクグループの累計加入者数は9600万規模に、売上高は2.5兆円となり、ユーザー規模と売上高で世界3位の通信事業社に飛躍。「一番良いタイミングで投資した」と孫社長は自信を見せる。来日したSprintのダニエル・ヘッセCEOも「Sprintは回復途上にある」とアピールした。

画像 孫社長とヘッセCEO

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 新たに設立したソフトバンク全額出資の米子会社を通じ、121億ドル(9469億円)分の株式を既存株主から買い取るほか、80億ドル(6240億円)分の増資を引き受ける形でSprintの70%の株式を取得する。資金は手元資金と借り入れでまかなう。手元資金は約7000億円ほど保有しており、借り入れはみずほコーポーレート銀行など4行が引き受ける合計約1.5兆円のブリッジローンを確保。買収の完了は来年半ばになる見込みだ。

 「米国市場は成長のポテンシャルが大きい」と孫社長はみる。携帯電話の契約者数は3.5億人と日本の倍以上。うち約半数の1.7億人がスマートフォンユーザーだ。日本同様にポストペイド(料金後払い)が普及しており、ARPU(加入者1人当たりの売上高)は4454円と世界一。通信速度は日本より遅く、先行する日本のノウハウを投入できるほか、市場は上位2社の寡占状態でボーダフォンを買収した時の状況に似ていおり、「挑戦者にとってはまたとないチャンス。日本で体験したことを、もう一度再現できると考えている」(孫社長)


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「Sprintは回復途上、一番良いタイミングで投資」

 Sprintは3GではKDDIなどと同じCDMA2000規格を採用し、W-CDMAのソフトバンクとは異なる。ポストペイド携帯の契約者数は3300万(プリペイドは1500万)で、米国内シェアは、Verizon Wireless(39%)、AT&T(30%)に次ぐ3位(ソフトバンク調べ)だが、5期連続の最終赤字を計上しており、経営状態は厳しい。昨年からはiPhoneを扱っているが、取り扱いうための条件として4年間で3050万台の販売コミッションを結んだとされ、経営の重しになっている。

 SprintのヘッセCEOは、再建を託されて07年末にCEO就任。08年以降、コスト削減やブランド価値向上施策を打ち、契約者数は10年から上昇に転じているほか、前四半期のARPU成長率は他社を追い抜き1位になったとアピールする。「Sprintは回復途上にある。これから2年間は、LTE展開など投資のフェーズで、財務的に苦しい。ソフトバンクから投資を得たのは大きなチャンス。14年には再建策が完了し、利益と成長につながる。ソフトバンクの日本での成功体験を生かしたい」(ヘッセCEO)


画像 Sprintの契約者数は10年以降上昇に転じている
画像 Sprintの12〜13年は「投資」のフェーズ

画像 ソフトバンクは日本テレコム、ボーダフォン、ウィルコムをそれぞれ買収し、V字回復させてきた。「3社は“赤字三兄弟”だったが、ソフトバンクの力でV字回復した。三度あることは四度あるのではないか。1回ならまぐれだが、3回やるとノウハウだ」

 「この投資は成功しますか? という質問の答えは、『自信あります』だ」と孫社長は胸を張る。Sprintが自力で再建しつつあるという「一番良いタイミング」で資金提供を決めたことが、自信の根拠にあるという。

 「自らの力で業績が回復しているところに、ソフトバンクが資金と戦略を投入する。80億ドルは“真水”の増資で、ネットワーク、財務体質の強化と戦略的増資に使われる」(孫社長)。ソフトバンクが日本で培ってきたノウハウを生かせる自信もあるという。「スマートフォン戦略や顧客獲得ノウハウ、ボーダフォンやウィルコムを再生させたV字回復ノウハウ、LTEのノウハウなどを提供する」

 両社の契約者数を合計すれば9600万となり、スマートフォンや通信機器調達時にスケールメリットが出る。「スマホの購入台数は世界最大。ネットワーク機器も、両社ともEricssonの同じものを使っており、メーカーに対して交渉力が増す。価格競争力にも優れる」

借金返済、「自信があります」

 借入額は1.5兆円に上るが、「借金の返済にも自信があります」と孫社長。「無茶な借り入れをしないよう、だいぶ大人になった。ボーダフォン買収時の借入金をEBITDA(税引き前・減価償却前利益)で割ると5.6倍だったが、今回は約半分の2.7倍。ボーダフォンの時の年間金利は4%、今回は1.数%で、銀行のみなさんからはもっと借りてくれと言われれたぐらい。専門家が前回よりも大きく安心感を持ってくれている」

 Sprint買収が報道されて以来、同社の株価は値下がりが続いている。孫社長は株主に対して、(1)支払資金は手元資金と借入で全額行い、新株発行などエクイティファイナンスは一切行わない、(2)配当方針は変えない、(3)純有利子負債は早期に削減する――とアピール。

 「2日間でソフトバンクの時価総額が1兆円減っている。1兆円の不安をみなさんに提供したが、旅をしたお金が何兆円という形で戻ってくると受け止めていただきたいと自信を持っている。投資家のみなさん、今こそが買い! 今買わずにいつ買うの? と申し上げたい」

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