ITmedia NEWS > ベンチャー人 >

沖縄在住なのに「新宿ダンジョン」制作 マップ作りで上京5回 開発者・上原さんに聞く苦労(1/3 ページ)

» 2014年04月04日 10時32分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 新宿駅の構内図(ジョルダンのWebサイトより)。まさにダンジョンだ

 「日本のリアルダンジョン」とも言われ、来訪者を迷わせる東京・新宿駅。JR線と私鉄、地下鉄が複雑に乗り入れ、1日当たりの乗降客数は日本一、地下街の広さも日本一といわれる。

 そんな新宿駅の構造を忠実に再現した個人開発のゲーム「新宿ダンジョン」(iOS/Android)が、公開から数週間で20万ダウンロードを超える人気となっている。

 プレイヤーは、新宿駅南口から東京都庁までを冒険。ファミコン風ドット絵のマップで、都庁前駅や新宿三丁目駅など地下通路で新宿駅につながるすべての駅を網羅し、構内の階段や柱、通路の凸凹まで丁寧に再現した。


画像 新宿ダンジョンのゲームの起点・JR新宿駅南口
画像 本物のJR新宿駅南口。改札の色や柱の位置はゲームとほぼ同じだ

 開発した上原さんは、新宿を知り抜いた生粋の東京人――ではなく、沖縄本島中部の北谷(ちゃたん)町に住む、生まれも育ちも沖縄の、20代後半の男性だ。「新宿ダンジョン」を作るために1年間に5回も東京を訪れ、新宿駅を歩き回ってマップを書き上げたという。

 新宿はあまりに広く複雑で、何度もあきらめかけたが、「東京までの飛行機代がもったいない」と踏みとどまり、何とか完成にこぎ着けた。

新宿駅で迷って、悔しくて

画像 那覇の中心・国際通りで、「新宿ダンジョン」を表示したiPhoneを持つ上原さん。5回の上京で、新宿駅は完全にマスターしたという。「案内板を見ずに、案内板に沿って歩くより早く目的地に着けます」

 きっかけは2年前。東京旅行で訪れた新宿駅で迷い、「悔しいからマスターしてやろう」と思ったことだ。

 ネットで新宿駅の評判を見ると、「ダンジョン」「迷宮」などと呼ばれている。「あの現実離れしたごちゃごちゃ感は、ゲームにできるんじゃないか」――「ドラゴンクエスト」シリーズのダンジョンのようなゲームをイメージし、開発にとりかかった。

 「ネットで公開されている地図や構内図を組み合わせれば、どうにかなると思ってたんです、最初は」

 沖縄に帰ってから新宿の地図をネット検索したが、どの地図も断片的だったり古かったりしたため、駅の全体像すら把握できない。「どうしようもなかったので、現地に行くことにしました」

 最初の滞在は1年ほど前。格安航空券で沖縄から東京に飛び、新宿の漫画喫茶やネットカフェに4〜5日ほど泊まり、駅を歩き回った。「一度見れば、なんとかなるだろう」。そう考えていたが甘かった。あまりの広さと複雑さに「何も得ずに帰ってきました……」。

 足も痛めてしまった。「沖縄は車社会で基本的に歩かない。新宿で歩き回って足を壊しちゃって。1日歩いて、1日休んで……と休み休みだったので、滞在期間の半分ぐらいしか動けなかった。東京の友だちとも遊ぶつもりだったんですが、誰にも会わずに帰りました。もっと余裕を持ちたかったですけどね……」

ずっとやめたかった

 沖縄に戻り、新宿駅の現場感を持った状態で改めてネット上の地図などを見返すと、おぼろげながら全体像が見えてきた。「とんでもないものに手を付けてしまった……」。新宿駅はあまりに広く、深かった。「それ以降はずっと、やめたいと思ってました。でも、飛行機代を使ってしまったので引くに引けなくなって……」

画像 階段のつながりや出口などをメモしたノート

 マップ作りのため上原さんは再び、新宿に向かった。構内図を表示したiPhoneと紙のノートを手に、駅の全体像や階段と階段のつながり、地下道のつながりなどをノートにメモ。ホームや乗り換え口を調べるため、入場券を使って同じ改札に何度も入ったりした。「駅員さんは怪しんでいたでしょうね」

 特に苦労したのは西口広場だ。JRや小田急、京王の西口、都庁方面への連絡通路、バスターミナルなどさまざまな場所につながり、面積も広大だ。「西口広場は広いんです。本当に広いんですよ。階段もいっぱいあるし、意味が分からなくて……」


画像 実際の新宿西口広場の一角。案内板からもその複雑さが見てとれる
画像 ゲーム内で新宿西口広場の一角。柱のデザインまで再現されている

 2回目も5日間ほど滞在したが、新宿駅の全体像をつかむのが精一杯。「永遠に終わらないんじゃないか」――そんな絶望感にもさいなまれながら上原さんは、三たび新宿を訪れた。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.