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沖縄在住なのに「新宿ダンジョン」制作 マップ作りで上京5回 開発者・上原さんに聞く苦労(2/3 ページ)

» 2014年04月04日 10時32分 公開
[岡田有花,ITmedia]

工事でマップが変わって絶望

 3〜4回目の上京で、細い通路のつながりや壁の出っ張りなどを確認。できる限り忠実にゲームに反映した。「ここまで現実に則さなくてもたぶん誰も気づかないとは思った」が、飛行機代をかけてわざわざ来ているからには、きちんと再現したかった。


画像 入り口が大きく、奥に行くにつれ狭くなるアルタ前の通路も
画像 ゲーム内でリアルに再現

画像 東西自由通路の計画図(JR東日本が2012年に発表した資料より)

 5回目は、完成したマップと現実とのすり合わせや、工事などによるマップ変更点の確認に費やした。「サザンテラス口の改札の位置が工事で変わっちゃってて。ショックでしたね。全部作り終わった後だったので。ゲームの進め方に影響はなかったのでまだ良かったですが……」

 新宿駅には今も、工事中の場所がある。JRの西口と東口をつなぐ「東西自由通路」開設工事などだ。「あそこがつながるとゲームに影響があるんで、今から悩んでいます。工事でマップが変わったらアップデートしますよ。しないと、レビューで『駅の形が違います』って『☆1』付けられちゃうので……。確認のためにまた、新宿に行かなきゃならないのか……」

建物名も忠実に 「現実の雰囲気に近いトラップ」仕掛ける

画像 スタジオアルタの場所には「スタジオマルタ」が

 地図はいったん手で書き起こしたものを、Excelで作ったマス目に転記。「スタジオマルタ」や「メトロ食堂」など、駅とつながる建物や施設の名称も、一部もじりながらほぼ完全に再現した。

 開発期間のほどんどをマップ作りに費やしており、ゲーム設計やグラフィック制作、プログラミングはマップ完成後に一気に進めた。初めてのドット絵制作に試行錯誤し、ルート作りにも悩んだ。新宿駅を端から端まで回り切りながら、「こことここがつながっているんだ」と驚きや発見を味わってもらえるルートを目指した。

 駅構内では、落とし穴やパズル、一方向にしか進めない床、障害物など、ダンジョンゲームの定番トラップが待ち受ける。「できるだけ現実の新宿駅の雰囲気に合ったトラップを選びました」


画像 Excelで作ったオリジナルの新宿駅構内図
画像 出口の名称もすべて書き出し、Excelで管理

画像 西口の動く歩道は
画像 動く床に

画像 アイコンだけ見るとまるで3Dゲーム

 ゲームはドット絵だが、アイコン画像とトップ画は、開発者の集まりで知り合った@Jacminikさんに、3Dゲーム風のリアルなものを描いてもらった。映画の予告編のようなプロモーションビデオも作ってもらい、ニコニコ動画で公開。「カッコ良く、よく分からない世界観を表現してもらえた」と満足している。


鉄道マニアも絶賛 次は渋谷?

 リリース後の反響は想像を超えた。Twitterでゲームに言及する人が「エゴサーチが追いつかないほど」大量に現れた。「新宿駅を使っている人が多いから、反響も大きかったのでは」とみる。

 特にうれしかったのは、駅構内を知り尽くす鉄道マニアから評判が良かったことだ。「電車アイコンの方々が、どこの通路がどこにつながっているとか、自分の分からない専門用語で話してくれて。正確だ、とほめられたのがうれしかったです」

 「新宿をダンジョン化したゲームは俺も考えててたのに」――そう悔しがる人も多かった。「駅をダンジョンにするアイデアは珍しいもではないけれど、作る過程でみんなあきらめたと思う。自分もあきらめようと思ったけど、ほかの人が作った時に『自分も考えてたのに』とグチグチ言うだろうと思い、意地で完成させました」

 「ほかの駅も出してほしい」という要望も殺到している。多いのは、渋谷駅、東京駅と、大阪の梅田駅だ。

 次に作るとすれば、渋谷駅という。駅そのものは広大だが、ほかの駅とはつながっておらず、作りやすそうなため。プログラムやグラフィックは新宿ダンジョンのものを流用できるが、「問題はマップですね。作りたいけど、足が……。体のダメージを考えるとちょっと、あんまり行けないですよね……」。

 新駅を開拓するかは、しばらく悩むという。

“理不尽ゲーム”の原点「上原テトリス」

 最近の人気スマートフォン向けソーシャルゲームは、遊び始めに丁寧なガイダンスがあり、難易度も低く設定されているものが多いが、新宿ダンジョンは操作ガイダンス一切なしで、プレイヤーはいきなり新宿駅構内に放り出され、唐突に現れる落とし穴に落ちたりもする。行き詰まってもヒントを得る手段はなく、自力で解決するか、攻略サイトなどで解決策を探るしかない。

 上原さんはこれでも、「簡単な方に寄せたつもり」だと話す。以前から「もっと理不尽なゲームばかり作っていた」ためだ。

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