プロジェクト作成にあたって一番骨を折ったのは“魅力的な見せ方”だ。同分野の専門家の前で説得力のある学会発表をするのと、何も知らない一般の人に向けて魅力的に研究をアピールする難しさはまったく別だ。内容だけでなく、本人の人柄や情熱も、研究を伝えるためには大切な要素と考え、プロジェクト作成時には必ず動画を撮影することに決めた。
柴藤社長自身が本人の話を聞いて興味を持った部分や「この人しか話せない」面白さを引き出すことに注力したという。「テヅルモヅルって、形だけで『おおっ!』ってなるじゃないですか。だから途中でバケツを開けてモヅルをぐっとつかんでカメラに見せるようにしました。その方がインパクトあっていいなぁと」(柴藤社長)
ただ研究費を求めるだけでなく、ユーザー側が楽しんでお金を払いたくなるような出資者へのリターンの内容にもこだわった。岡西さんが撮影したテヅルモヅルの写真の壁紙や学会動画、モヅルがデザインされたポロシャツやパーカーなど、他では手に入らないオリジナリティーある商品をそろえる。最高額の3万円コースでは、実際に採取したテヅルモヅルの乾燥標本を特典にしたところ、真っ先に完売。上限の6枠を増やせないかという要望が寄せられるほどの大反響で、手応えを感じたという。
今後はサイトから公募も受け付けつつ、まずは柴藤社長の知人を中心にプロジェクトを増やしていく。物理学や化学、統計学などの分野を考えており、文系分野でもフィールドワークが必要なテーマを被災地復興などと絡めて活用できないかと構想する。将来的には月に4〜5のプロジェクトをコンスタントに掲載していきたいという。
目指すのは「研究のエンタメサイト」。お金を集めることだけがゴールではなく、「面白い研究ないかな」とふらっとのぞいてもらえる場所にしたいと話す。プロジェクトが終わっても動画はアーカイブされ、未知の世界に挑む面白さや研究者の情熱は伝わる。中高生が進路選びに生かしたり、多くの人に興味を持ってもらうきっかけとなり、より深い支援や協力につながれば――。
「大学や研究者が自ら世間にアピールして資金を募るのが当たり前になればacademistの意義はなくなるし、それが理想。研究費や寄付と異なる選択肢として『こんなやり方もできるんだ』ということを1人でも多くの研究者に知ってもらいたいし、一般の人にも学術研究に興味を持ってもらいたい」(柴藤社長)
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