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「ゲーム音楽を、音楽史に残る文化に」――日本初のゲーム音楽専門プロオーケストラ「JAGMO」の思い

» 2014年12月15日 11時00分 公開
[山崎春奈,ITmedia]

 演奏されるのは「ポケットモンスター」「ファイナルファンタジー」などゲームミュージックだけというフルオーケストラコンサート「THE LEGEND OF RPG COLLECTION―伝説の交響楽団―」が来年2月7〜8日に東京・五反田で開催される。「思い出の電子音がオーケストラで再現される感動を多くの人に届けたい」──コンサートに臨む思いをプロデューサーと指揮者に聞いた。

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 演奏するのは、ゲーム音楽に特化した日本初のプロオーケストラとして今年春に誕生した「JAGMO」(ジャパンゲームミュージックオーケストラ)。資金難に陥っていた前身団体「日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」の組織や運営体制を一新する形で、ゲーム音楽に特化した楽団として発足し、約1年にわたって活動してきた。

 これまでは東京で少人数編成の室内楽公演を数回行い、累計動員数は1万人を突破。12月の都内を皮切りに来年4月まで名古屋市、兵庫県、静岡県をまわる全国ツアーを敢行する予定で、その最中、「RPG編」の集大成として満を持して約70人編成のフルオーケストラによる公演に臨む。チケットは公式サイトで発売中だ。

「泣いてしまいました」 耳馴染んだ曲に新たな感動を

 公演は5部制。RPGの画面のように仕立てたWebサイトには、「ポケットモンスター」「クロノ・トリガー」「キングダムハーツ」「ロマンシング サ・ガ」「ファイナルファンタジー」と、コアなゲーマー以外にもなじみ深いタイトルが並ぶ。演奏予定の曲も「ポケットモンスター 赤・緑 冒険曲メドレー」「反乱軍のテーマ」「ザナルカンドにて」「時の傷痕」などファンからは名曲として人気の高いものが選ばれている。

photo 第1部は「ポケットモンスター」
photo 第5部「ファイナルファンタジー」は公演回によって演奏曲が異なる

 「これまでの会場の反応を元に、フルオーケストラだからこそ映える曲を吟味し、全体を通してゲームの世界観を体感できるような構成にこだわった。新たな視点からゲーム音楽の広がりに、そしてオーケストラの魅力に気付いてもらえるはず」と、プロデューサーの泉志谷忠和さんは新たなファン獲得に意気込む。

 通常のクラシックコンサートと異なり、来場者は20〜30代が主。男女の比率は半々で、カップルや親子連れなども目立つという。友人たちの中心にテレビゲームがあった思い出、幼少期に「ポケモン」を楽しんだ経験など、コアなファンでなくても身近にゲームがあった世代として広く興味を持ってくれているのでは――と話す。

 「『泣いてしまいました』という感想がとても多いのが印象的、僕も何度見ても目がうるんでしまう。自らゲームをプレイしてきた思い出やシーンが頭に浮かぶことで、想像力やノスタルジーを刺激する感覚はゲーム音楽ならではだと思う」(泉志谷さん)

本物の楽器の持つ迫力を若い世代に

 演奏面にもこだわり、ヴァイオリニストの三浦文彰さん、コンサートマスターの枝並千花さんをはじめ、国内外で活躍する若手演奏者が集う。奏者の平均年齢が20代中盤とプロオーケストラとしては若いのも「ゲーム音楽が身近にあった世代が同世代に届けたい」という思いの現れだ。

photo 過去公演の様子

 日本国内の交響楽団の数は世界各国と比べても多いほうとはいえ、ポストが空くチャンスは少ない。ゲーム音楽を専門とすることで、自ら楽しんだ思い出があったり、同じ時代の空気を知っている世代“だからこそ”できる演奏を届け、才能ある若手演奏家が活躍する機会を作りたいというのもJAGMOの狙いの1つだ。

 メンバーの1人、指揮者でクラリネット奏者の吉田誠さんも、パリ国立高等音楽院やジュネーブ国立高等音楽院で学び、小澤征爾さんに師事する気鋭の演奏家。クラシックもゲーム音楽も「背景をしっかりと理解し、音楽を通して観客に情景を伝えるプロセスは同じ」と話す。

 「普段オーケストラになじみがない人、難しさを感じている人こそ生音に触れてほしい。1人1人が魂を込めて演奏する音圧と迫力に触れて分かること、感じることが必ずあると思う」(吉田さん)

 「ゲーム音楽を、音楽史に残る文化に」――JAGMOが抱えるコンセプトは、泉志谷さん自身の思いだという。幼少期からゲームに親しんできた泉志谷さんが今の道に進むきっかけとなったのは、中学生のころに行った「ファイナルファンタジー」のコンサート。「今まで電子音で聞いていたものがオーケストラになるとこんなに違うのか! と感動したのをよく覚えている」と話す。

 「『スーパーで売っている魚の切り身と泳いでいる魚が結びつかない子どもが増えている』という話があるが、音楽の世界にも似たようなことが起こっていると思う。電子音や打ち込みの音楽で『ストリングス』としてくくられているものを、ヴァイオリンとヴィオラ、チェロ、コントラバスとして別々に音や動き、息遣いを感じられるのがオーケストラ。体全体を使って“聴く”経験で、思い出のゲーム音楽への愛を深めてもらいたい」(泉志谷さん)

photo プロデューサー泉志谷忠和さん(右)と指揮を務める吉田誠さん

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