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「眠っていたアイデア」を形に――ソニーの社内ベンチャー発、電子ペーパー時計「FES Watch」ができるまで連載・クラウドファンディング「成立」のその後(2/3 ページ)

» 2015年03月13日 09時00分 公開
[矢内加奈子,ITmedia]

「便利さ」よりも「身につける喜び」をユーザーに

 「電子ペーパーを使ってファッションアイテムを作る」というコンセプトのもとでチームが発足し、まず決まったのが「腕時計を作る」ということ。開発に当たってこだわったのは、ユーザーに「身につける喜び」を感じてもらうことだという。

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 「スマートウォッチをはじめとする、デジタルを融合させたファッションアイテムの多くはこれまで『便利さ』が注目されがちだった。ただ、私たちは便利さよりも、身につける喜びや楽しさを伸ばす方向にテクノロジを使いたいと思っていた。だからこそ今回は、デジタルな柄を常時表示できる電子ペーパーを採用した」(杉上さん)

 電子ペーパーは、薄くて軽く本体を曲げられるほか、ほとんど待機電力がかからないため常に柄を表示できるといった特性を持つ。そこでFES Watchは、1枚の電子ペーパーで時計全体を作ることで、フラットで薄くスタイリッシュなデザインを実現した。

 ボタンを押したり時計を見るしぐさをすれば、時計全体の柄が変わるギミックも特徴だ。日常の中のさりげない動作でさまざまな表情を楽しめるようになっている。柄のデザインは24通り。より多くの柄を表示することも技術的には可能だったが、「腕時計」という商品特性に合わせて1日の時間である「24」通りにしたという。

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社名を出さずにクラウドファンディングした理由

 こうして開発が進められていたFES Watchは、なぜクラウドファンディングを行ったのか。杉上さんによれば、クラウドファンディングを活用しようと思った理由は大きく2つ。1つ目は、製品を世に出す前に「テストマーケティング」を行うためだ。

 「FES Watchはスマートウォッチではなく“ファッションアイテム”として身につけるものなので、今までソニーが出してきた製品とはカテゴリーが少し違う。これが果たしてユーザーに求められているものなのか、商品としての価値を確かめておきたかった」と杉上さんは振り返る。

photo FESのプロフィールページ。ソニーの名前はなく、あくまで“1つのベンチャー組織”としてクラウドファンディングを実施した

 ソニーの社名をあえて出さずに「Fashion Entertainments」(FES)という団体名でクラウドファンディングをスタートしたのも、ブランド名などにまどわされない“真のニーズ”を知るためだ。さらに「ご支援いただいた方には、アンケートやインタビューをお願いすることがあります」とページに記載し、支援者の生の声を集めていった。

photo Makuakeでのプロジェクトページ

 もう1つの理由は、電子ペーパーを紙ではなく「布」としてとらえるこの新しいアイデアを、社外の支援者とともに育てたいと思ったからだ。「電子ペーパーで色や柄が変わるファッションアイテムというアイデアは多くの可能性を秘めているので、自分たちだけで閉じて考えるのではなく、ユーザーやクリエイターの意見を聞きながら、新しい商品やライフスタイルを一緒に作っていきたいと考えていた」

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