大気が澄み渡り、月の高度もほどよい9月は、月の鑑賞にふさわしい時期です。そのスピリチュアルさから、月の神アルテミス、かぐや姫、魔術とのかかわり、餅をつくうさぎなど、おとぎ話、伝承、伝説、神話として語り継がけれてきた月は、まさしく神秘のシンボル。
ところが月の裏側へまわってみると、全く違う姿が存在することをご存じですか? 月周回衛星「かぐや」により、初めて確認された月の全体像。地球からは見ることができないがゆえに、長らく謎に包まれていた月の「裏側」とは?
地球にいる私たちがいつも見ているのは、あくまで月の表面。これまで月の裏側を見ることはできなかったのです。その理由は……
上記のように、月と地球は引力の力で互いに影響を及ぼし合う関係にあり、常に同じ向きでいるため、地球から見える月はいつも同じ面(表面)になり、月の裏面を地球から見ることはできなかったのです。
月の裏側がどうなっているか――それは人類にとって、長い間の謎とされてきました。
1959年、旧ソ連の月探査機「ルナ3号」が、初めて月の裏面の写真撮影に成功。そして、1961年〜72年に実施されたアポロ計画以来、最大規模の月探査を行ったのが、2007年9月に打ち上げられた月周回衛星「かぐや」です。
月周回衛星「かぐや」の大きな成果の1つは、これまで探査が行われていなかった地域も含め、すべての地域をカバーする月面地形データが、観測装置の1つであるレーザ高度計(LALT)によって取得されたことにあります。
このデータを国立天文台が解析し、国土地理院が月の地形図を作成。JAXA、国立天文台、国土地理院の3機関が、月の地形図をついに公開したのです。このデータをもとに赤色立体地図の手法を用いて作成された月の地形図は、私たちも手軽にブラウザ上で見ることができます。
最も目を引くのが、月の地形図により明らかになった月の裏側の姿です。海と呼ばれる部分はほとんどなく、クレーター跡でボコボコとなった月の裏の姿は、表面とはまったく異なる一種不気味な印象すら受けます。さらに見た目だけではなく、「かぐや」の探査結果によって月の裏面の重力場も明らかになり、表面と裏面では地下構造や形成の歴史が異なっていることも判明したのです。
月には多くの「海」と「クレーター」がありますが、影のように見える海には「中央の入り江」「熱の入り江」から「晴れの海」「静かの海」「危機の海」「豊の海」「雲の海」「雲の海」「雨の海」「氷の海」――とそれぞれ神秘的な名前がつけられています。
例えば、うさぎの頭部は「豊の海」、体は「静かの海」、腰の部分は「晴れの海」と呼ばれる部分に該当しますが、日本人にとってうさぎが餅つきをしているように見える月の影も、国によってその見え方は多種多彩。国や地域によっては「大きなはさみのカニ」「本を読むおばあさん」「薪をかつぐ男」「ほえるライオン」「バケツを運ぶ少女」――と実に様々です。
さらに人名がつけられた数多いクレーターの中には、日本人名のクレーターも存在します。
このほか、1986年のチャレンジャー爆破事故で殉死した日系アメリカ人の宇宙飛行士、エリソン・オニヅカ(Ellison Shoji Onizuka)の名がついたクレーターもあります。
「天体観測は月に始まり、月に終わる」と言われますが、「かぐや」が取得した情報の解析によって、「月の表面はどのような鉱物組成なのか」「月の内部はどのような構造になっているのか」という月探査本来のミッションはもちろん、下記のような科学的アプローチも今後可能になると期待されています。
月の観測によって天体の謎が解明されることは、とても夢のある話ですし、「40億年前の地球」に思いを馳せるだけでも、なんだかワクワクしませんか? そんな思いを胸に、ぜひ今夜は秋の空を彩る静謐(せいひつ)な月を仰いでみては。私たちが日々直面する困難や悩みも、悠久(ゆうきゅう)の時の中ではとてもちっぽけなものなんだよと、月がエールを送ってくれるかもしれません。
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