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ぼくらはなぜ「AIの遺電子」にこんなにも惹かれるのか(1/3 ページ)

» 2016年04月13日 13時25分 公開
[松尾公也ITmedia]

 元ITニュース記者の漫画家・山田胡瓜さんの「AIの遺電子」第1巻(Amazon.co.jpへのリンク)が4月8日に発売された。ITmediaの読者のみなさんならPC USERの連載「バイナリ畑でつかまえて」でとっくにご存知のことだろうが、「AIの遺電子」は週刊少年チャンピオンで連載されているSFマンガだ。その魅力を改めて紹介しておきたい。

photo 「AIの遺電子」単行本の帯

近未来版ブラック・ジャック?

 紙版の単行本の帯には「これぞ近未来版ブラック・ジャック! 人工知能を治療する新医者!」とある。

 漫画の神様の作品と並べるなど「おこがましいとは思わんかね」と怒られそうだが、期待を裏切ることはない。この帯はブラック・ジャックを連載していた少年チャンピオンだからできる力技ではあるが、その特徴を正しく言い当てている。

 AI(人工知能・人工知性)を備えた人間そっくりのヒューマノイドを治療する、人間を診る医者とは別の「新医者」須堂。彼は須堂「新医院」(ヒューマノイドの診察と人間のインプラントなどを行うようだ)の医師であると同時に「モッガディート」という闇医者としての名前も持つ。モッガディートは、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短篇「愛はさだめ、さだめは死」の主人公であるエイリアンの名。

 「バイナリ畑でつかまえて」はわれわれが生きているこの時代、遠くても10年先くらいの「今」で、Twitter、Facebook、クックパッド、Googleストリートビュー、アバター、iPhone、ガラケー、ドローン、セカイカメラといったぼくらが親しんでいる(使ったことがある)ガジェットやテクノロジーと人のかかわりを描いた作品だ。

 「AIの遺電子」はもっと先の話。人間と同じレベルの知性・感情を持つ「ヒューマノイド」(ヒト指向型人工知能)が人口の1割に達した世界が舞台だ。

 この未来では人間とヒューマノイドが既に共存できるようになっているが、ヒューマノイドが「人権」を獲得するまでには相当の苦難があったことが「ロボット倫理会議」の存在などでさりげなく提示される。そうした過程を経て、この未来においては親子、夫婦、恋人、友だち、こうした関係が人間とヒューマノイド、ヒューマノイド同士で成立している。だが、人間、ヒューマノイド双方の考え方、接し方にはまだまだバラツキがあり、そこで起きるトラブルも多い。

 ただ、そうした問題を戦争とかテロだとか殺人事件、陰謀、暴力、憎悪などで描くのではなく、「愛」「友情」をベースに描いているところがこの作品、そして作者の特徴と言える。「AIの遺電子」のAIはもちろんArtificial Intelligenceであるが、「あい」と読ませる、愛の物語でもあるのだ。

 ブラックジャックが人間(動物も)を治療するというヒューマンドラマなのに対し、須堂=モッガディートが活躍するAIの遺電子は、ヒューマノイドを治すヒューマノイドドラマだ。BJを1文字ずつ前にずらすとAIになるというのも意図してのことだろうか?

 秋田書店により3話までがオンラインで「試し読み」公開されており、Kindleなどの電子書籍のサンプル版では2話の途中まで読むことができる。

 まず第1話を読んでほしい。単行本を買うからいい、という人も、オンライン試し読み版はカラーページがあるから読む価値がある

photo 第1-3話がブラウザで読める(カラーページあり)

 この先は試し読み版をお読みいただいた後でぜひ。

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